2022 Fiscal Year Research-status Report
脂質変化とエンドソーム変化を介する水素投与によるストレス耐性獲得機構の解明
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21K11690
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
池谷 真澄 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (60644359)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水素 / 麻酔薬 / セボフルラン / アポトーシス / 脂質ラフト |
Outline of Annual Research Achievements |
水素分子(H2)には抗酸化・抗炎症効果による疾患改善効果・予防効果があることが知られているが、その作用機序は未解明な部分が多い。我々はH2が脂質変化とエンドソーム変化を誘導することから、分子メカニズムの一端として、H2投与により脂質膜構造と機能が変化していると推察している。我々はH2に曝されることによって起こる脂質変化・エンドソーム変化と疾患改善効果・予防効果の分子メカニズムの関係性について明らかにし、この研究成果により、H2の最適投与法を予測する為の基礎を確立することを本研究の目的としている。H2と同じく直接的な作用分子が不明なガス分子として吸入麻酔薬があるが、近年、吸入麻酔薬は脂質ラフトの面積を変化させることが分かり、麻酔によるシグナル伝達と関係があることが示されている。水素による脂質ラフトへの影響を調べたところ水素混合ガスが含まれた培養液を細胞に投与すると脂質ラフトの局在が変化することが明らかになった。また、吸入麻酔薬のセボフルランはマウスなどの齧歯類の新生仔の脳において細胞死の一種であるアポトーシスを引き起こすが、1~8%濃度のH2の同時吸引によってそのアポトーシスが抑制されることを見出した。また、アポトーシスを起こした細胞の大部分は神経幹細胞であることが分かり、H2によりアポトーシスが抑制されていた。アポトーシスシグナルに関連するFasやJunなどの遺伝子の増加がH2に抑制された。また、セボフルランによる脳内の酸化ストレスの上昇がH2によって抑制されることが分かった。更にリン酸化プロテオーム解析を行ったところ、セボフルランにより1000種を超えるリン酸化ペプチドが変化し、そのうち90種類ほどのリン酸化ペプチドがコントロールレベルに回復していることが明らかになった。解析したところ、発生に関わる分子が多く存在することが分かった。セボフルランが与える神経発生への影響をH2が抑制する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H2を細胞に投与すると細胞膜の脂質ラフトの局在が変化するということがG-STED顕微鏡を用いた観察方法により明らかになった。また、in vivoの実験でマウスにセボフルランとH2を同時に投与すると、セボフルランによるアポトーシス誘導に関わるシグナル伝達経路がH2同時投与により抑制されることが明らかになった。同時に酸化ストレスが抑制されているということと、タンパク質のリン酸化に影響を与えているということが明らかになった。H2がアポトーシスを抑制するメカニズムがあきらかになりつつあることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
セボフルランが発生期の神経に影響を与えアポトーシスを亢進するシグナル伝達経路をH2が抑制するということが明らかになってきたので、論文としてまとめる予定である。以降は動物実験で得た結果をもとに細胞実験を進めていく。予定としては、①H2曝露によるエンドソームの変化とストレス耐性の関係を調べる:酸化ストレス発生時に初期エンドソームとミトコンドリアが接触して細胞保護に働くことが知られていることから、H2曝露1時間後の細胞においても接触が見られるか、免疫染色などによって調べる。②H2曝露による細胞内シグナル伝達の変化を調べる:H2曝露によって上昇が見られたホスホイノシチドの下流シグナルについて、免疫染色法、ウェスタンブロット法などにより調べる。その際に特に脂質ラフトに注目した実験を行う。各々の実験においてセボフルランと同時にH2投与した場合の変化も解析し、セボフルランの作用機序との関係性も調べる。
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Causes of Carryover |
動物実験の方が比重が大きかったために、細胞培養用の試薬やプラスチック消耗品を購入する必要があまり無かった。次年度は細胞実験を中心に行う予定であり、試薬やプラスチック器具などの消耗品を多く購入する。また大容量データを取り扱うために必要な機器やソフトウェアなどもそろえる予定である。
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Research Products
(8 results)