2021 Fiscal Year Research-status Report
食塩過剰摂取による腸粘膜Naイオン輸送異常は食塩感受性高血圧発症に関与するか?
Project/Area Number |
21K11716
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Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
晝間 恵 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 生理学, 講師 (30572870)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栗原 千枝 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 内科学, 助教 (90532515)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 腸粘膜Naイオン輸送 / 食塩感受性高血圧 / ナトリウム・カリウムポンプ / 食塩過剰摂取 / 酪酸 / 細胞間結合(タイトジャンクション) |
Outline of Annual Research Achievements |
食塩過剰摂取による高血圧発症には、過剰なNaイオンと水を尿中に排泄する腎臓の機能不全が関与することは周知である。一方、体内循環水およびNaイオンの吸収の場である腸の高血圧発症への関与が注目されてきたが、まだ詳細は分かっていない。我々は、食塩感受性高血圧ラットでは食塩過剰摂取時に腸粘膜におけるNaイオン輸送が正常に機能しないことを報告した。 本年度は、ヒト結腸癌由来上皮細胞Caco-2を用いて、食塩感受性高血圧と腸粘膜細胞間隙透過性との関連を検討した。Caco-2細胞は一般的な培養条件で分化し、腸管腔側と血漿側を区別する極性を持った単層細胞層を形成する。また、細胞間結合形成タンパク質を高発現し、腸管上皮としてのバリア能に優れている。 培養開始14日目のCaco-2細胞に、①CTS(ナトリウム・カリウムポンプ(NKAポンプ)のリガンド)の一つであるouabainを血漿側に作用させ、細胞膜抵抗を測定した。CTSは食塩過剰摂取により分泌が促進されることが報告されている。②酪酸ナトリウム(糞便中の短鎖脂肪酸のうち、高血圧ラットで特異的に減少していることが報告されている)を腸管腔側に作用させ、細胞膜抵抗を測定した。その結果、2mM 酪酸ナトリウム添加後1日目に細胞膜抵抗が有意に上昇すること、および、細胞生存率の低下が抑えられることが分かった。一方、10nM ouabain添加後2日目に細胞膜抵抗の上昇傾向が見られたが、有意な差は認められなかった。 これより、酪酸は腸粘膜バリア機能を促進することが分かった。酢酸産生の低下が高血圧ラット腸粘膜の透過性亢進の一因であると推測された。 現在、ouabain処理したCaco-2細胞膜上のNKAポンプ発現およびc-Srcリン酸化の変化をウエスタンブロットにより定量的に測定して、NKAポンプのエンドサイトーシスとの関連を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、動物購入手続き、および短絡電流法に使用する電極の入手が遅くなってしまった。そのため、食塩過剰摂取によるラット腸粘膜透過性の変化を短絡電流法により検討するという当初の予定を変更して、腸粘膜上皮細胞のモデルであり、細胞間結合(タイトジャンクション)マーカーが高発現しているCaco-2細胞を用いて、正常状態における食塩刺激および酪酸ナトリウムと粘膜細胞透過性との関連を検討した。 Caco-2細胞を分化させ、細胞膜抵抗値を約1000Ω/cm2以上にするための条件検討や、添加するouabainや酪酸ナトリウムの濃度および処理時間の検討に時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の継続として、ouabainを作用させたCaco-2細胞膜上のNKAポンプの発現量とc-Srcリン酸化の変化を検討する。 また、酪酸ナトリウムがCaco-2細胞の膜抵抗を上昇(透過性の減少)させた(本年度明らかにした)ことより、正常(SD)ラットとDahl食塩感受性(DSS)高血圧ラットの糞便中の酪酸の定量を試み、DSS高血圧ラットでは酪酸産生が減少していることを確認する(変更点)。 さらに、短絡電流法に用いる電極が入手できたので、最初に取り組む予定であった食塩過剰摂取によるラット腸粘膜透過性の変化を、デキストラン透過性の変化として比較検討する。 ところで、腎臓由来上皮細胞であるMDCK細胞ではCTS(ouabain)-NKAポンプ-c-Srcを介してタイトジャンクションマーカーの発現が促進され、細胞間隙透過性が減少することが報告されている。しかし、腸粘膜上皮細胞ではouabainによる有意な細胞膜抵抗の促進(=細胞間隙透過性の減少)(本年度の結果)は認められなかった。一方、我々は、CTSが正常ラット腸粘膜の透過性を減少させることを短絡電流法により実証している。これらを総合すると、腸粘膜細胞ではCTS-NKAポンプ-c-Srcを介した情報伝達系はタイトジャンクションマーカー発現には作用せず、NKAポンプのエンドサイトーシスを促進すると推測された。 上記を実証すべく、それぞれのラット腸粘膜試料から初代培養細胞の作製を試み、SDおよびDSSラットの初代培養細胞に、げっ歯類のNKAα1に親和性の高いCTSであるmarinobufageninを作用させて、細胞膜上のNKAポンプの発現量とc-Srcリン酸化の変化を比較検討する。
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Causes of Carryover |
本年度は動物購入手続き、および短絡電流法に使用するため電極の入手が遅くなってしまい、実験の進行が当初の予定より少し遅れてしまった。そのため、次年度使用額が生じてしまった。 この次年度使用額と翌年度分として請求した助成金は、ラット購入代(300,000円)、物品費(700,000円、研究分担者分も含む)、旅費および学会大会参加費(300,000円、研究分担者分も含む)に使用する予定である。
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