2021 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の認知機能を活性化する最適な嗅覚刺激法の開発研究
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21K11717
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
内田 さえ 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 専門副部長 (90270660)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 認知機能 / コリン作動性神経 / 血流 / 注意機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,高齢者の認知機能低下の早期検出および,認知機能の活性化に最適な嗅覚刺激法の開発を基礎および臨床の双方から目指す.基礎研究では,認知症で脱落するコリン作動性神経系が,嗅覚脳領域の血流反応に与える影響を調べる.臨床研究では快・不快な匂いと認知機能との関連を調べるとともに,嗅覚刺激が認知機能を活性化する可能性を検討する. 2021年度は,①老齢ラットの嗅球血流反応に対するコリン作動系の関与(基礎研究)および,②高齢者を対象とした快臭の域値と弁別機能の関連性(臨床研究)を解析した.①成熟ラットでは,嗅覚刺激に対する嗅球の血流応答がニコチン性受容体(α4β2型)の刺激で増大する.一方,老齢ラットでは嗅覚刺激に対する嗅球血流応答は観察されるものの,ニコチン性受容体刺激による増強効果が低下していることが分かった.②快臭の代表例であるバラ花香の域値と弁別機能との関連性を地域在住高齢者で調査したパイロット研究データを解析した.バラ花香の域値の上昇(感度低下)と弁別機能の成績低下に関連性が認められた. 嗅覚機能は加齢に伴う低下に加え,認知症の最も初期から顕著に低下する.脳内のα4β2型ニコチン性受容体数は老齢ラットや高齢者で低下すること,更に認知症では顕著に低下することが知られている.本研究で明らかとなったα4β2型ニコチン性受容体を介する嗅球血流応答の低下は,加齢および認知症での嗅覚機能低下に関与することが示唆される. コリン作動性神経系に着目して嗅覚刺激法の開発を行う本研究は,認知症の早期発見と予防に嗅覚刺激を実用化するための科学的基盤となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,高齢者の認知機能低下の早期検出および,認知機能の活性化に最適な嗅覚刺激法を,基礎と臨床研究の双方から開発することである.実験動物を用いた基礎研究(以下1)と,主に高齢者を対象とした臨床研究(2と3)を行う計画である.1)嗅覚脳領域の血流反応へのコリン作動系の関与の解明.2)高齢者の認知機能低下を早期検出する嗅覚検査の確立.3)快臭の嗅覚刺激が高齢者の認知機能に及ぼす効果の解析. 2021年度の基礎研究では,嗅覚一次中枢である嗅球に着目し,血流応答へのコリン作動系のα4β2型ニコチン性受容体の関与について,加齢の影響の解析が進んだ.匂い分子は嗅神経により受容され,その情報は嗅球へ送られる.成熟ラットにおいて嗅神経を刺激すると嗅球の血流が特異的に増加する.この嗅球血流応答はニコチン性受容体の刺激で増強される.老齢ラットにおいても嗅神経の刺激による嗅球血流応答が認められた.一方,ニコチン性受容体の刺激による嗅球血流応答の増強効果は老齢ラットで低下することが分かった.この成果の学会発表を2022年度に予定している. 臨床研究では,地域在住高齢者を対象として,心地よい快臭であるバラ花香の域値と弁別機能の関連性の解析が進んだ.バラ花香の域値が高い(感度低下)高齢者群では,弁別課題の成績が低いことが分かった.この研究成果を短報の英文論文として発表した.新型コロナ感染症の蔓延の影響で,臨床研究の調査は困難であったが,パイロット研究として嗅覚と弁別機能の関連性を見出すことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度以降は,基礎研究では嗅覚一次中枢の嗅球に関する研究成果について学会発表・誌上発表を行うとともに,嗅覚二次中枢の梨状皮質に着目した研究を進める予定である.臨床研究では,嗅覚刺激が認知機能を活性化する可能性を調査する予定である.具体的には以下の方法により研究を行う. (1)基礎研究:梨状皮質の血流に対するコリン作動系の関与の解析.梨状皮質に投射する前脳基底部コリン作動性神経の生理機能を,アセチルコリン(ACh)放出と血流反応から観察する.第一に,麻酔下のラットを用い,梨状皮質の細胞外ACh放出量をマイクロダイアリシス法とHPLC-ECD法により測定する.梨状皮質に投射するコリン作動性神経の起始核である前脳基底部(対角帯核の水平脚:HDB)の局所刺激が梨状皮質のAch放出に与える影響を明らかにする.第二に,梨状皮質の局所血流に与える前脳基底部刺激の影響を明らかにする.梨状皮質で得られた結果を,これまで調べてきた嗅球,海馬,新皮質の結果と比較する. (2)臨床研究:嗅覚刺激が認知機能を活性化する可能性を,前頭葉血流測定により解析する.嗅覚刺激としては,快臭であるバラ花香,不快臭である汗臭などを同定する課題,類似した匂いの弁別課題について検討し,前頭葉血流を増加する効果が認められるか明らかにする. 認知症で脱落する前脳基底部のコリン作動性ニューロンは,大脳の嗅覚脳領域・海馬・新皮質に投射し,嗅覚・記憶・認知機能に関与する.本研究課題は,同コリン作動系に着目して,嗅覚と認知機能の関連性を解明し,高齢者の認知機能低下の早期発見と,認知機能の活性化に最適な嗅覚刺激法を解明する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:新型コロナ感染症の蔓延の影響により,2021年度に予定していた調査研究が制限されたことや,学会の現地参加不可に伴う旅費の不使用等のため. 使用計画:翌年度の助成金と合わせた約184万円の使用計画は次の通りである.物品費90万円(基礎研究に用いる刺激電極,ACh測定消耗品,受容体遮断薬等,調査研究に用いる計測用品など),旅費20万円(日本生理学会参加旅費),人件費・謝金10万円(被検者謝金),その他64万円(計測機器レンタル代,英文校閲,論文掲載費など).
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Research Products
(9 results)