2022 Fiscal Year Research-status Report
オキシトシンによるアルコール依存障害の減弱メカニズムの解明
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21K11726
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
日出間 志寿 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (30241558)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | オキシトシン / アルコール離脱症状 / 不安 / うつ |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年のWHOの発表では、世界中でアルコールの過剰摂取による死者は、毎年年間300万人以上に達し、世界的なコロナ禍や東日本大震災後のストレスの蓄積によるアルコール依存傾向の上昇が懸念されており、過剰飲酒による弊害への対策が求められている。近年、ペプチドホルモンのオキシトシン(OXT)は,神経発達障害の改善のみならず、薬物やアルコール中毒など精神神経疾患の改善をもたらすことが示唆されている。本研究では、我々の開発したOXTとOXTR(オキシトシン受容体)に関する遺伝子改変マウス群を用い、アルコールの摂取抑制およびアルコールによる障害の減弱メカニズムにおけるOXT の作用を解明する。また、我々は最近食品関連天然物中に、OXTRアゴニスト用の活性をもつ化合物が存在する例を見いだしており、OXT様の薬効と類似活性をもつ天然物化合物を経口で利用することで、飲み過ぎなどアルコール障害の減弱を狙った新規機能性食品の開発基盤整備を同時に目指すことを目的とした。R4年度はエタノールの長期摂取によるOXT遺伝子欠損マウス(OXTKO)/OXTR遺伝子欠損マウス(OXTRKO)のアルコール嗜好性への影響と、摂取後のアルコール離脱期の行動への影響を解析した。エタノールの短期摂取および長期摂取により野生型(WT)、OXTKO、およびOXTRKOのアルコール嗜好性の変化は見られなかったが、長期摂取で、一定量のアルコールの摂取が計測された。 そこでエタノールの長期摂取後に行動試験を行い、アルコール離脱症状を評価した。WTではアルコールの長期摂取後で、有意に不安、うつ傾向の上昇を示し、アルコール離脱症状のモデル系として有用であると判断した。さらに、OXTRKOはWTに対し、有意に不安の上昇、うつ傾向の上昇が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
WT、OXTR KOを用いて,5週間連続で一定時間(18:00-翌日の9:00)に水,あるいは20%エタノールを液量計測が可能なボトルにいれケージにセットし、双方の飲量を調べ、嗜好性を評価した。その結果、OXTR KO、WTともにアルコール嗜好性の変化はみられなかったが、一定のアルコール摂取が継続した。次に、アルコール離脱症状のモデル系をつくることを試みた。WTに対し、エタノールの5週間連続摂取後、1週間経過したところで、Open field test(明るい新規環境でマウスの移動距離、不動時間、中央区間の滞在時間などを測定する。中央区間に滞在する時間が長いほど不安が高い。)で不安行動を、Tail suspension test(マウスの尾を固定し宙づりにし6分間の不動時間を測定する。不動時間が長いほどうつ傾向が高い)でうつ傾向を測定した。その結果、アルコール摂取前と比較し摂取後で不安とうつ傾向が上昇することが明らかとなり、アルコール離脱症状のモデル系として有用であると判断した。さらに、アルコール離脱症状におけるOXT-OXTRシステムの機能を調べるため、OXTRKOに対し5週間、エタノールと水の二瓶選択を呈示したのち1週間あけて行動試験をおこなった。Open Field Testでは アルコールの継続摂取によりOXTRKOはWTと比較し有意に中央区間の滞在時間が有意に短く、不安傾向の上昇がみられた。一方で走行距離にはWTとOXTRKOで差は見られず運動量には影響がみられなかった。Tail suspension testでは アルコール摂取後のOXTR遺伝子欠損マウスはWTと比較し無動時間が有意に長く、うつ傾向の上昇が認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
アルコール長期投与によってアルコール離脱症状モデルとしたWTに対しOXTの腹腔内投与を行い、離脱症状の改善効果があるかを検討する。また、社会行動試験で、加味帰脾湯がOXTRのアゴニスト活性があることが明らかになったため、加味帰脾湯を経口投与しアルコール依存性、離脱症状の改善効果の有無を検討する。OXT-OXTRシステムが、アルコールの依存性と離脱症状を減弱するとして、それが GABA作動性神経であるのかを明らかにする。GABA作動性神経特異的Oxtr遺伝子欠損マウスvGAT-Cre:Oxtrfx/fxを作出し、そのアルコール離脱症状について行動テストを行う。これらの試験で対照群との有意差がみられた場合、関与している領域を明らかにするため、ウイルスを用いた部分的OXTRレスキューを行う。具体的には vGAT-Cre:Oxtrfx/fxにAAV-FLEX-OxtrをウイルスインジェクションしGABA作動性神特異的にOXTRを発現させ行動試験を行う。次に脳領域特異的にOXTR発現神経の活動を抑制し、OXTRがアルコールの離脱症状に関与する脳領域を明らかにしアルコールの依存性と離脱症状を減弱化で活性化するOXTR発現ニューロンの神経回路を明らかにする。OXTR発現神経特異的にCreを発現するOxtr-Creマウスに、アデノ随伴ウイルスベクターにより抑制性のDREADD(designer receptors exclusively activated by designer drug)であるhM4DiをCre依存的に導入する(OXTRCre/hM4Diマウス)。アルコール離脱症状を示すOXTRCre/hM4DiマウスにM4DDiの特異的リガンドclozapine-N-oxide (CNO)を投与し、不安、抑うつを解析する行動試験を行い、どのOXTR発現領域が重要であるかを解析する。
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Causes of Carryover |
令和4年度は動物行動試験に集中したため、分子生物学的な消耗品の使用が限定された。 令和5年度は動物飼育料に加え、抗体、酵素、PCR関係等の試薬の使用を予定している。
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