2023 Fiscal Year Research-status Report
高精度分子機能設計のための軌道相互作用解析-機械学習連携手法の開発
Project/Area Number |
21K12014
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
折本 裕一 九州大学, 総合理工学研究院, 学術研究員 (00398108)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 軌道相互作用解析 / 機械学習 / 分子機能設計 / ニューラルネットワーク / 電子状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
物質特性の高度制御には対象系の電子状態を知る必要があり、本質的にはさらにその電子状態を作り出している軌道間相互作用の把握に帰結する。本課題では、基底関数を人為的に軌道収縮させて個々の軌道間相互作用をカットし定量評価するThrough-Space/Bond(TS/TB)軌道相互作用解析法を基盤として、分子構造、軌道相互作用、電子状態、分子特性等を機械学習(ニューラルネットワーク(NN))によって階層的に結びつける。“中間記述子”として軌道相互作用を利用することで、機械学習の精度を高めるとともに、ブラックボックスとなりがちなNNを「軌道相互作用」の言葉で理解可能となるよう開発を進め、従来アプローチを超えた高度な材料設計・創薬支援量子化学手法を目指している。 昨年度までに、TS/TB解析法と機械学習の結合、また、π共役系分子に対して分子構造-軌道相互作用-分子特性を結ぶ多段階NN構築の試験を行った。予測精度が十分といえなかったものの、重要相互作用検出、逆解析による重要構造因子検出などの可能性を見出した。 令和5年度は、昨年度と同様のモデルを用い、NNへの情報の与え方とネットワーク構築法を工夫することで、多段階NNの予測精度を向上させた。さらにアンサンブル的NN利用によって、予測・逆解析を安定化させた。ドナー・アクセプター置換π共役系分子において、系のフロンティア軌道を制御している軌道相互作用の経路を特定し、また逆解析によって系のHOMO/LUMOギャップを効果的に変化させうる化学修飾法について軌道相互作用の観点から知見を得ることに成功した。実用化に向けてさらに様々な系や事例に対する検証が必要であるが、本手法の有効性を示す重要な前進となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題では、軌道間相互作用を定量評価できるThrough-Space/Bond(TS/TB)解析法を基盤に、分子構造―軌道相互作用―分子特性を機械学習によって階層的に結びつけることにより高度材料設計・創薬支援手法の構築を目指している。 初年度(令和3年度)は、基盤技術であるTS/TB法の整備と課題解決を行った。並行して、巨大系のための高速電子状態計算法Elongation(ELG)法によって得た核酸分子と種々のリガンド分子間の結合エネルギーについて機械学習を適用した。令和4年度は、TS/TB解析法と機械学習の結合を行い、種々のドナー・アクセプター置換π共役系分子に対して軌道相互作用を中間記述子とした分子構造-軌道相互作用-分子特性を結びつける多段階ニューラルネットワーク(NN)を構築した。これとは別に、ELG法により得たDNAの連続塩基配列の電子状態への影響について機械学習を実施し、パターン抽出に成功した。令和5年度は、令和4年度に行った多段階NNの予測精度を高めるため、学習に用いるデータの与え方やネットワーク構築の方法を様々に検討し、精度向上に成功した。さらにアンサンブル的NN利用によって、予測・逆解析を安定化させた。これにより系のフロンティア軌道を制御している軌道相互作用の経路を特定し、加えて逆解析によって軌道相互作用の観点からHOMO/LUMOギャップを効果的に変化させうる化学修飾法について知見を得た。 軌道相互作用を中間記述子とした多段階機械学習の方法論はおおよそ完成しその有効性も示せたが、実用化に向けてはさらに様々な系や事例に対する検証が必要であり、「やや遅れている」という自己評価を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
Through-Space/Bond(TS/TB)解析法を基盤とする軌道相互作用解析-機械学習連携手法の実用化に向け、次年度(令和6年度)は「分子構造-軌道相互作用-分子特性の多段階ニューラルネットワーク(NN)手法」を多様な系や事象に対して適用し、その汎用性を検証しつつ、多段階NNの逆解析結果に基づいた分子機能設計も試みる。また、巨大系に向けて高速・高精度電子状態計算法Elongation法と組み合わせて核酸分子等に適用可能となるよう開発し、高精度分子機能設計ツールとして完成を目指す。研究推進においては、研究課題の意義・目標について十分留意し、計画見直しがあった際には、優先順位を明らかにしつつ着実な計画遂行を心がける。
|
Causes of Carryover |
今年度は軌道相互作用解析-機械学習連携手法による大規模検証、機械学習逆解析、ELG法による巨大系展開を計画していたが、機械学習との連携精度をさらに高める必要性が分かり、解決に想定以上の時間を要し、関連して未使用額が生じた。具体的には、本格的な検証計算のために確保していた研究補助謝金に未使用額が生じた。併せて、研究成果発表や打ち合わせについても見送るものが発生して旅費が予定額を下回った。大型計算機が応募者多数で十分確保出来なかったことも加わり、遅延とともに計画見直しのため未使用額が生じた。 次年度使用額の使用計画として、令和6年度の研究予定に適宜組み込む。計算資源の確保、研究補助の謝金使用を引き続き検討し、旅費は研究打ち合わせ・研究成果発表に使用する。研究の進捗に応じて適宜使用計画を見直し、無駄が生じないよう効果的な運用を行う。
|
Remarks |
〔Web解説〕 折本 裕一、“高分子分析・計算科学の原理・技術と装置メーカーリスト ~計算科学/量子化学計算~” (URL) https://www.spsj.or.jp/equipment/, 公益社団法人 高分子学会, 2024年2月公開.
|
Research Products
(6 results)