2021 Fiscal Year Research-status Report
思春期から成人期までの発達過程での役割間葛藤対処法の創発・変容プロセスの動態解明
Project/Area Number |
21K12054
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Research Institution | Okinawa National College of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 尚 沖縄工業高等専門学校, メディア情報工学科, 准教授 (70426576)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 役割間葛藤 / 役割間葛藤ゲーム / 強化学習 / Q学習 / マルチエージェント・シミュレーション / 思春期 / 成人期 / 平等な協調状態の創発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、複数集団からの同時多発的役割要求によって生じる「役割間葛藤」への対処法の創発や変容プロセスを解明することを目的とする。この役割間葛藤に関する研究は、主に成人期以降を対象としている。しかし、このような問題は成人期未満の世代、例えば思春期集団においても日常的に生じる。それにも関わらず、思春期を対象とする役割間葛藤の研究は皆無に等しい。 そこで本研究では、思春期から成人期までの幅広い世代を対象として上記目的を達成するため、役割間葛藤状況を表すゲーム論的枠組みとして「役割間葛藤ゲーム(Interrole Conflict Game; ICG)」を提案し、思春期特性を有する発達型強化学習エージェントの集団が徐々に成人期主体へと発達していく中で、それらの主体集団にICGを継続的にプレイさせ、思春期と成人期で創発した役割間葛藤への対処法の違いや発達過程を通した対処法創発・変容プロセスの動態を解明する。 2021年度に実施した研究では、思春期から成人期までの特性を強化学習エージェントにおける「学習率(低=成人期、高=思春期)」と「割引率(低=思春期、高=成人期」をそれぞれ11段階に分けて個別に表現し(全121パターン)、すなわち、思春期から成人期へと前述のパラメータを徐々に変化≒発達させることはせず、それらをまずは固定したエージェントにICGをプレイさせて振る舞いにどのような特徴が現れるのかを調べた。 シミュレーション実験の結果、思春期特性が、役割間葛藤状況下で1つの集団に肩入れするなどの偏りを生じさせず、主体間での対等な協調状態を実現するために重要な役割を担うことが示唆された。 本実験では、時系列学習・予測能力、そして外部報酬のみならず内部報酬に基づき自身の行動を価値付ける能力を簡単化のために省略したモデルを用いた。2022年度ではそれらの影響についても更に詳細に調べて明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、1年目に役割間葛藤状況下において思春期特性が主体の行動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため、この特性から徐々に成人期特性へと変化させる「発達機能」を使用せず、すなわち、思春期特性を変化させずに固定したままの強化学習エージェントを用いて調べ、2年目には逆に最初から成人期特性を設定してこれを固定したままの強化学習エージェントを用いて調べ、そして3年目に上述の「発達機能」を働かせて思春期特性を徐々に成人期特性へと変化させる過程で思春期と成人期のそれぞれで創発した役割間葛藤への対処法の違いや発達過程を通した対処法創発・変容プロセスの動態を解明するという研究計画を立てていた。 しかしながら、初年度に発注した、マルチエージェント・シミュレーションに耐えうる高性能計算機の納期が、コロナ禍や半導体不足が影響していつまでも確定せず、結果的には発注してから納品されるまでに数ヶ月を要したため、その間は別の計算機を代用して開発等を進めざるを得なかった。このことにより、研究が予定より大幅に遅れてしまい、当初計画していた国際会議への参加を断念した。 また、代用した旧型の計算機は、発注した計算機よりも計算能力が劣るものであったため、この旧型計算機でも計算に耐えられるよう、エージェントモデルの仕様を一部変更(時系列学習・予測能力や内部報酬の概念を基にした外部報酬予測能力を簡単化のため省略)することにした。しかし、当初の研究計画では1年目と2年目の2年間掛けて行う予定としていた思春期特性と成人期特性をそれぞれ個別に調べる研究を1年目にまとめて行い成果を得ることができた。また、この成果は2021年度末に査読付きジャーナル論文(電子版)として出版することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に行う研究では、前年度に旧型計算機の計算能力を考慮して省略した「時系列学習・予測能力」や「内部報酬の概念を基にした外部報酬予測能力」を新たに組み込んだ強化学習エージェントモデルを用いて、これらの能力も含めた思春期、および成人期特性がそれぞれ役割間葛藤状況下での各主体の個別の振る舞いやそれらの振る舞いを通じた主体間相互作用にどのような影響を及ぼすのかを検証する。 また、前年度に得られた、上記能力を省略したモデルを用いて行ったシミュレーション実験の結果との比較も行い、前年度以上のより詳細な解析を進め、役割間葛藤状況下における各能力や特性の関係性について明らかにすることを試みる。 また、これらの研究成果については、秋に開催予定の国際会議で発表するべく、鋭意研究を進めていく。さらに、年度末までに査読付きジャーナル論文の投稿・アクセプトを目指す。
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Causes of Carryover |
投稿した論文のアクセプト、そして電子出版が2021年度末に確定した。しかし、出版元の都合により、電子ジャーナルへの論文の掲載費請求処理等が遅れたため、2022年度にその費用について予算執行することとなった。
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Research Products
(1 results)