2022 Fiscal Year Research-status Report
日中と夕暮れとの視行動の相違とその判断・印象への影響に関する研究
Project/Area Number |
21K12082
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
野本 弘平 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (60456267)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 視知覚 / 視線計測 / 薄暮 / 日中 / 夜間 / 歩行者 / 交通事故 / 印象 |
Outline of Annual Research Achievements |
警察庁の分析によると薄暮の時間帯には交通事故が増加し,その内容は歩行者対車両の事故の比率が高い.一方,昼間は普通に見えていた景色が,薄暮になると印象的に感じられることは,私たちがしばしば経験することである.これらの現象は,同じ原因に依っており,それは薄暮独特の視知覚であるという仮説に基づき,本研究を進めている. 二年目である当該年度は,初年度で得た知見に基づき,規模を拡大した実験を行った.その実験では,日中,薄暮,夜間のそれぞれの時間帯に,視線計測装置を装着した実験参加者が,左側車道の車両が身近にすれ違う右側歩道,および横断歩道,そして観光資源のある公園の中を歩行した.そしてその後,実験協力者は,視覚的印象を形容詞対により評定するなど,一連の課題に回答した. 実験により得られたデータを解析した結果,次のことが明らかになった.まず,右側歩道の歩行時における視知覚に関して:(1) 薄暮は,日中,夜間に比較して,720[ms]以上の長い注視の割合が,静的対象では増加するのに対し,動的対象では減少する.(2) 薄暮には,動的対象の注視距離の分布は静的対象よりも範囲が狭くなり,21~45[m]の範囲に集中している. つぎに横断歩道の信号待ち補講における視知覚に関して:薄暮には,短い注視の方位角方向での視野範囲が狭くなっている. そして,観光地における印象に関して:景色を見る際の印象は「安心感」と「興味・関心」の二つの因子から成立しており,薄暮における景色の印象はは両者とも正の値を有している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験については,初年度の実験により得られた知見とノウハウを生かして,規模を拡大するとともに,取得データの質を向上させ,印象評定のための形容詞対の改良を図ることが出来た. また,解析についても,視線に関しては,初年度にも行った注視点の空間分布,持続時間分布などの解析に加え,視対象遷移の動的解析や,そのランダムさを表すエントロピーの評価,および,探索に係る短い注視と観察に寄与する長い注視との対比など,広範な見地からの考察を行った.一方,印象に対は,SD法 (Semantic Differential Method)の形容詞対を予備実験により見直し,精度の高い解析を行うことが出来た. 以上のことにより,現在までの進捗状況は,おおむね順調に進展しているものと判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,一年目と二年目の実験で得られたデータの解析を進める.これまでは,条件ごとに統計量を取り行っていた解析を,各実験協力者の視知覚が各条件によりどのように変化するかを明らかにし,その変化を全実験協力者間で統計的に集計,比較を行う.このことにより,これまでよりも検出力の高い解析を行うとともに,これまでに明らかになっていた日中,薄暮,夜間の視知覚に関する諸特性について,相互の関係を明らかにする. また,特に交通事故については,接近してくる車両を注視するタイミングを,筆者らの提案する指標であるETTC (Extended Time to Collision)を用いて引き続き解析を行うが,その際に必要な視距離の算出について,新たな方法を開発できたので,これを用いて精度の高い解析を進めて行く. さらに,印象に対は,現時点では視知覚の特性との因果関係が十分には明らかにはなってはいないので,これについてさらに深い解析と検討を加えていく. 以上のことを通して,本研究の総合的な解析を行う計画である.
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Causes of Carryover |
コロナ禍により出張が減少した.さらに,本年度は,実験規模の増加と,実験データ集計法の複雑化により,これらに要する時間が増えて解析や研究発表に係る時間は相対的に減少し,よってこれらの関連経費も減少した.最終年度である来年度は,これまでの実験により得られたデータの解析と研究成果の発表を行う.残りの研究費は,これらのために用いる.
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Research Products
(4 results)