2021 Fiscal Year Research-status Report
分子シミュレーションを用いたアルツハイマー病におけるAβ産生の起点機構の詳細解明
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21K12115
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
宮下 尚之 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (20452162)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | β切断酵素 / 分子動力学シミュレーション / APP / REMD / アルツハイマー病 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病の初期過程における分子機構では、ニューロン細胞にある膜タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)が通常では膜タンパク質のα切断酵素によって切断されるところが、膜タンパク質のβ切断酵素によって切断されC-APPが生成される。その後、γ切断酵素によって切断され、アミロイドβペプチドが産生される。本研究では、分子シミュレーションを用いたアルツハイマー病におけるAβ産生の起点機構の詳細解明における、特にβ切断酵素とAPPとの特異的な動的相互作用の観点から研究を進めている。 我々のこれまでの研究から、生体分子の相互作用には特異的な動的相互作用があることに気づいた。これは例えば膜タンパク質間の相互作用の際にはコレステロールなどの脂質分子が相互作用に関わってきたりする。これまでの研究では膜貫通部位のみの動力学を考慮していたが、本研究では全長を考える点が新しい点である。本研究はβ切断酵素とAPP、α切断酵素とAPPとの相互作用の研究であるが、このようなアルツハイマー病の起点現象を通して、膜タンパク質間相互作用の知見を深めることにつなげようとしている。 本年度成果としては、1)β切断酵素の全長構造のモデリングを実施し、2)その全原子モデル分子動力学(MD)シミュレーションを実施した。その結果、細胞外領域にあるβ切断酵素の切断部位の運動には制限があり、β切断酵素とAPPとの結合過程が切断に影響することがわかってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は順調に進んでいる。本研究では『β切断酵素とAPPの特異的な動的相互作用機構』を以下の3つの手順で研究する。①β切断酵素の全長構造のモデリング、②β切断酵素全長とAPPとの粗視化モデルシミュレーション、③複合体構造の特性調査。現在、①のβ切断酵素の全長構造のモデリングが終了し、全原子モデルの分子動力学(MD)シミュレーションの実施も行った。 β切断酵素は細胞外領域と細胞内領域の立体構造が明らかになっているが、生体膜中(TM:transmembrane)の立体構造がわかっていなかった。そこで、今年度は我々が過去にレプリカ交換分子動力学法(REMD)で予測したβ切断酵素の膜貫通部位の構造を用い、その構造に細胞外領域と細胞内領域を接続させ、β切断酵素の全長構造をモデルした。この際、以前REMDで構造予測した構造と既存の細胞内外構造の間(接続部位)に未知の構造領域があったため、REMDを用いて未知の接続部位の立体構造を予測した。上部の接続部位の構造と膜貫通部位構造を接続した後にMDシミュレーションを実施し、その後、細胞内外構造を結合して全長構造を作成した。その後、全長構造のMDシミュレーションを実施して、全長構造のβ切断酵素の動力学について調べた。これらの詳細については国際学会pacifichemで発表した。 ①のモデリング実施の際、既存の構造間の接続が非常に難しく難航したが、MDシミュレーションを介することで問題点を解決することができた。 また、周辺研究として、次の過程であるγ切断酵素に関する研究も進めつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、β切断酵素とAPPとの相互作用研究を実施し、特異性と動的な観点から膜タンパク質間の相互作用を明らかにする。一方で、これまでβ切断酵素のモデリング研究が順調に進んでいることから、α切断酵素の全長構造のモデリングも実施する予定である。α切断酵素の全長モデリングはβ切断酵素とほぼ同じ手法が使えると考えられる。可能であればβ切断酵素とα切断酵素のAPPへのアプローチの仕方の違いについて最終的に議論できればと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナの影響で海外出張に行けなかったこと、アルバイトの確保が予定通りできなかったこと、新型コロナ禍でコンピュータの部材の価格上昇と取得目処がたたず、大型の購入品を次年度に回したことから、次年度使用額が生じた。次年度は、新型コロナ状況の緩和も見込め、出張もコンピュータの部材などの注文状況もより良くなると考えられるので、早めに発注などを行う予定である。
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