2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞の代謝調節制御機構を組み込んだ大規模代謝モデルの開発
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21K12118
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
松岡 結 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 講師 (30615779)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 代謝モデル / コンピュータシミュレーション / 代謝制御 / 中心代謝径路 / カタボライト制御 / 大腸菌 / システム生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内の代謝特性を表現でき、細胞工場の設計に応用できる、画期的な大腸菌の大規模代謝モデルを開発するためには、細胞の主な栄養源となる炭素源の取り込みを十分に理解して、代謝モデルを構築する必要がある。本研究では、再生可能資源であるリグノセルロース系バイオマスを加水分解して得られる糖類(グルコースとキシロース)が消費される仕組みに着目した。 一般に、回分培養などで、グルコースを含む複数の炭素源を用いて大腸菌などを培養すると、カタボライト制御のために、まず、グルコースが消費され、その後に、他の炭素源が消費されるため、培養時間が長くなって、有用物質などの生産性が低下する。このため、従来では、遺伝子破壊株を用いて、複数の炭素源を同時消費する研究が数多く行われているが、一般に、遺伝子変異株では、増殖速度が低下する。そこで本研究では、野生株大腸菌による複数炭素源を用いた連続培養について、コンピュータシミュレーションによる解析を行った。 その結果、増殖速度が低い場合は、リアクター内のグルコース濃度が低く保たれるので、カタボライト制御が解除され、複数の炭素源を同時消費できることが分かったが、この場合、比較的高い増殖速度(約0.4 h-1)でも、同時消費が可能であることが分かった。このとき、グルコース消費速度とキシロース消費速度の比が供給炭素源の濃度比と等しくなることも分かった。 また、キシロースを炭素源とした場合、グルコースの場合と比べて、増殖のためのエネルギー効率が低いことが分かった。そこで、代謝フラックスに基づいてATP比生成速度を計算し、増殖に必要な ATPがどのような代謝径路から生成されているのかを明らかにした。さらに、グルコースやキシロースだけを炭素源とした場合に比べて、両者を炭素源とした場合に、遺伝子レベルや酵素レベルの制御によって、細胞内の代謝特性がどのように変化するかを解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに開発している中心代謝径路のモデルに、アミノ酸合成径路を加えて、生合成径路を組み込んだ大規模代謝モデルの構築を最終目標にしているが、今年度は、有用物質生産への応用に向けた代謝シミュレーションを行った。その結果に基づいて、有用物質生産を向上させるための培養法の検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者らがこれまでに構築した中心代謝径路の動力学モデルと生合成径路であるアミノ酸合成径路を統合した、大規模代謝モデルを構築することによって、発酵産物の生産性を向上させるための培養法を提案し、有用物質生産の向上が期待できることを示す。とりわけ、多くの有用物質生産は、微好気条件や嫌気条件で行われることが多いため、酸素濃度を低下させた条件下でシミュレーションを行い、発酵性能を評価する。このとき、細胞内の代謝特性がどのように変化するのかを、代謝調節制御の観点から解析する。また、アミノ酸合成径路のモデリングに関しては、フィードバック制御機構を考慮し、アミノ酸合成に必要なNADPHなどの生成速度を計算する際には、本モデルの代謝フラックス分布から求める。
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Causes of Carryover |
学内で開催される研究会などに参加したため、出張費用等が抑えられた。このため、翌年度分として請求している助成金に合わせて、出張費用やPC周辺機器等の消耗品の購入に使用する。
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