2023 Fiscal Year Research-status Report
樹木年輪の年層内セルロース酸素同位体比による 高時間分解能 水文プロキシの構築
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21K12208
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
渡邊 裕美子 京都大学, 理学研究科, 助教 (20509939)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 樹木年輪 / 同位体 |
Outline of Annual Research Achievements |
京都大学芦生研究林で採取された針葉樹および広葉樹の年輪試料について、年々および年層内のセルロース酸素同位体比(δ18O)を分析した。最初に、年々のδ18O時系列データと中部日本の年輪酸素同位体比標準曲線を比較することにより、≪1≫ 年代モデルの構築 を行った。次に、年輪同位体比と気象データとの相関解析をすることより、≪2≫ 針葉樹の指標評価、≪3≫ 広葉樹の指標評価 を実施した。結果として、芦生スギとサワグルミの年輪δ18Oは初夏の降水量(あるいは相対湿度)と有意な負の相関があり、芦生スギとサワグルミから類似した再現的な水文気候の情報を抽出できることを明らかにした。本年度は、広葉樹のブナについてもセルロース抽出を行い、抽出後の年輪試料について詳細に観察した。年層内を6分割することが可能な年輪が連続する区間を探索したが、使用したブナ年輪試料の年輪幅が比較的狭く 分析に耐えうる年輪が認められず、水文プロキシとして指標評価することは叶わなかった。一方で、年輪境界が明瞭で比較的長い期間の解析が行えた芦生スギについて、年層内6分割δ18Oと気象データの相関関係の時間変化を検討した。その結果、1990年以前の年層内δ18Oと6月降水量(あるいは相対湿度)とに逆相関が認められ、相関係数のピークは梅雨期に卓越していた。それに対して、1990年以降では、年輪の内側(早材)から外側(晩材)に向かって、降水量と最も強い逆相関を示す時期が春季から夏季へと少しずつ移行しており、年輪の形成時期がそれ以前に比較して早期化している傾向が認められた。これらの研究成果は、芦生スギの年輪δ18Oが高時間分解能 水文プロキシとして有用であり、さらに 年層内の形成時期を特定することが可能で、樹木の肥大成長時期の変化を捉える研究に発展する可能性を示唆している点で、特に重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の予定通りに進み、これまでに芦生産の複数樹種の年輪試料についてセルロース酸素同位体比を計測し、≪1≫年代モデルの構築、≪2≫針葉樹の指標評価、≪3≫広葉樹の指標評価 を実施することができたため。 芦生スギδ18Oの水文プロキシとしての指標評価について、研究成果を国際学術雑誌に投稿し、論文として公開することができたため。加えて、当初の研究計画にはなかったが、研究の過程で 芦生スギの年層内δ18Oから年層内の形成時期を特定できることが分かり、肥大成長時期の経年変化を捉える副次的な研究成果が得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
芦生産サワグルミの研究成果について、国際学術雑誌に論文投稿するための準備を進める。さらに、これまでの研究成果を国内学会や国際学会で発表し、年輪気候学、年輪年代学、樹木生理学等の多角的な方面から議論を深める。
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Causes of Carryover |
(理由)これまで 新型コロナウィルスの感染状況等により 国際学会や国内学会へ参加し、研究成果を公表する機会が限られてきた。本年度は社会情勢が安定化する過渡期にあたり、引き続き研究成果を学会発表し 研究成果の公表を継続することにより、補助事業の目的をより精緻に達成するため、来年度も経費を使用することとした。
(使用計画)2024年度に開催される国際学会(第8回アジア年輪学会)および国内学会(地球惑星科学連合2024年大会)にて、研究成果を公表するための旅費として使用する。
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