2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞及び腫瘍に生じるクラスター損傷の可視化と修復機構の解明
Project/Area Number |
21K12248
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Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
中野 敏彰 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主幹研究員 (10526122)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | クラスター損傷 / 高複雑度DSB |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線は飛跡に沿って分子を電離し、その結果、照射された細胞では、飛跡と重なるDNA部位に高密度な損傷(クラスター損傷、高複雑度DSB)が生じると考えられている。しかしこれまでに、高密度損傷の存在を実証した研究はなされていない。そこで、私たちはこれまでに原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、クラスター損傷を個別に可視化・検出する方法を確立し、放射線を照射したプラスミドに生じた損傷の解析を行った。その方法を用いて、LETの増加に伴ってクラスター損傷を伴う損傷が増加することを明らかにした。前年度ではさらに、AFMによるDNA損傷の可視化分析技術を発展的に展開し、放射線を照射した細胞や腫瘍中のDNAでも検討する方法を確立した。その結果、細胞や腫瘍中に生じた塩基損傷、クラスターダメージ、DSB末端に塩基損傷を含む新たなDNA損傷の直接観察が可能となった。今年度はこの方法を用いてDNA修復欠損細胞(BER, NER,HR, NHEJ, FANC機構)で損傷毎の損傷の修復速度の検討を行い、クラスターダメージや高複雑度DSBがどのような修復機構で修復されるのか特定した。またクラスター損傷を含むモデル基質を調整し、精製DNAグリコシラーぜの働きを分析することで、複雑度の高いDNA損傷がどのように生成されるのか推測した。さらにこれらのDNA修復欠損細胞の放射線に対する感受性を求めることにより、個々のDNA損傷と細胞致死との関連性を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過酸化水素、X線、鉄イオンビームにより生じるDNA損傷解析を目的として個々のDNA損傷の修復効果を評価した。実験としては修復野生型のヒトリンパ細胞(TK6)に放射線を照射した後、さらにポストインキュベーションを行い修復の速度を求めた。その結果、重粒子線の一種である鉄イオン線では、クラスター損傷は孤立塩基損傷と同程度の速度でゆっくりと修復され、6時間で8割程度が修復された。しかし、塩基損傷を持つ二本鎖切断(DSB)(高複雑度DSB)は、修復されにくいことがわかった。一方、同様の実験をX線でも同様な検討を行なったが、いずれの形態のDNA損傷も、修復時間の増加と共に損傷が減少し、1時間で約半数が修復され、6時間後では約8割が修復されることがわかった。高複雑DSBが鉄イオン線とエックス線で異なると考えるが、実際鉄イオン線で生じる複雑DSBには塩基損傷が最大7つ結合したタイプが観察された。一方で高密度に生じるDSBはX線照射ではみられなかった。このような複数個の塩基損傷をもつDSBのような、いわば「高複雑度DSB」が、細胞にとって致命的なDNA損傷と考えられる。また本研究で作製したDNA修復欠損細胞(HR-/-, NHEJ-/-, BER-/-(OGG1-/-, NTH1-/-, OGG1-/-NTH1-/-), NER-/-, FANC-/-)を用いて同様な検討を行い、それぞれのDNA損傷がどの修復機構で修復されているかを明らかにした。これらは本年度予定していた通りに進行し、結果が得られたので全体として概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の成果により、培養細胞を用いた研究ではDNA修復がされにくく細胞に長期に渡り残存するDNA損傷の形態が明らかになり、重粒子線によって引き起こされる損傷を解析する手段が得られた。次年度はこれらが腫瘍でも同様な影響が見られるか明らかにする。これらは癌の重粒子線治療を念頭においたものであるため酸素条件の影響についても検討する。これにより今後、治療効果をより一層向上させることに貢献できると期待される。
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Causes of Carryover |
論文の投稿費として使用する予定であったが、さらにデータを追加して論文投稿する事となり、論文投稿が数ヶ月延びたため次年度での使用となる。
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