2021 Fiscal Year Research-status Report
湖沼生態系への温暖化対策の影響解明に向けた環境DNAによる新たな評価手法の構築
Project/Area Number |
21K12273
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
槻木 玲美 松山大学, 法学部, 教授 (20423618)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鏡味 麻衣子 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (20449250)
土居 秀幸 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 准教授 (80608505)
本庄 三恵 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (30450208)
加 三千宣 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (70448380)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近過去 / 環境DNA / 温暖化 / 湖沼 / 動物プランクトン / 琵琶湖 / 寄生者 / 植物プランクトン |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国最大の湖である琵琶湖では、温暖化の進行で懸念される異常豪雨の頻発化に備え、1992年から水位操作が施行されている。その水位操作が湖岸帯や浅瀬を産卵場として利用する魚類にも深刻な影響を与えたといわれており、生態系に大きな影響を及ぼしてきた可能性がある。水位操作の影響を評価するには、魚類だけでなく、その餌資源であるプランクトン相への影響を含め、総合的に検証していく必要がある。しかしながら、実際に、どのような影響が生態系全体に及んだのかについては、定量的な長期データが十分ではなく未だよくわかっていない。近年、新たな生物モニタリング手法として、環境DNA解析技術が目覚ましい発展をとげている。堆積物試料を用いて生物相を復元する古生物学分野でも環境DNA技術を用いた解析で大きな進展が見られつつある。そこで本研究は、古生物学的手法に環境DNAの解析技術を取り入れ、これまで長期動態を捉えることが難しかった水産資源の餌として重要な動物プランクトンのカイアシ類やプランクトン動態に大きな影響を与えうる寄生者を含む微生物相を高精度に復元し、水位調節のような温暖化対策による環境変化が琵琶湖生態系にどのような影響を与えたのかを明らかにすることを目的としている。 これまでに琵琶湖で魚類資源の重要な餌であるカイアシ類Eodiaptomus japonicus(ヤマトヒゲナガケンミジンコ)やカイアシ類と同様に重要な動物プランクトンであるミジンコ類Daphniaを対象にプライマーを開発し、これら2種を対象に過去100年分に相当する堆積試料中の環境DNA濃度を定量PCR法により分析した。解析の結果、堆積試料中の環境DNAは、ミジンコ類では、より簡便に産卵(休眠卵)量をとらえる可能性を、カイアシ類では生産量や現存量の長期変動を復元できる有効なツールとなりえる可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、環境変化が生態系へ及ぼした影響を評価する上で欠かせない動物プランクトンの長期動態の復元に関する解析を予定通り進展させることができた。これまで主要な動物プランクトンのヤマトヒゲナガケンミジンコとミジンコ類2種(カブトミジンコ, プリカリアミジンコ)を対象に堆積試料中の環境DNA濃度を定量PCR法により分析した。 分析の結果、ヤマトヒゲナガケンミジンコの環境DNAは分析したすべての層準から連続的に検出できることを見出した。しかも、その濃度は琵琶湖で1970年頃より精力的に実施されてきた定期観測試料の観察や室内実験に基づいて明らかにされた本種の生産量・急発卵・休眠卵との対応関係を解析した結果、生産量や現存量、急発卵と有意な正の相関関係を示すことを突き止めた。これは堆積物中の環境DNAを分析することで、カイアシ類の生産量や現存量に関する長期動態を再現できる可能性を示している(Nakane et al. submitted)。 一方、ミジンコ類(Daphnia galeata, D. pulicaria)2種の堆積試料中の環境DNAに関しても解析を進めたところ、ミジンコの環境DNAは、カイアシ類と異なり、時期によりほとんど検出されない層準もあり、時代により大きな変動を示すことが明らかとなった。しかも環境DNA濃度と遺骸や休眠卵の顕微鏡観察結果から推定される個体数・産卵(休眠卵)数との対応関係を比較したところ、ミジンコの環境DNA濃度は2種ともに個体数ではなく、休眠卵数とよく一致することを見出した。この結果はミジンコの場合、堆積試料中の環境DNA濃度から産卵(休眠卵)量の復元ができる可能性を示している(Tsugeki et al. 2022 Scientific reports)。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析から水位操作に伴う魚類相の変化が、主要な動物プランクトンのヤマトヒゲナガケンミジンコや外来種として侵入したと言われるプリカリアミジンコにも大きな影響を及ぼしてきた可能性が明らかになってきた。しかも、これら動物プランクトンの変動が植物プランクトン動態にまで影響を及ぼしている可能性が見えつつある。 今後は、メタバーコデイング解析や定量PCR法を対象とした堆積物中の環境DNAにより、これまで情報が得られなかった他のプランクトンやプランクトンに寄生する真菌類・感染するウイルスの動態を含めて明らかにし、水位調節のような、近年の温暖化への適応策による環境変化が生物相に及ぼした影響について、生物間相互作用を考慮に入れ生態系に及ぼした影響を検証していく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は堆積物に残る環境DNAを用いて、魚類の主要な餌であるカイアシ類などの動物プランクトンの復元に関する研究を進展させた。 そのため、次年度にプランクトンに寄生する寄生者の長期動態解明に関する研究を進展させていく予定であるため、次年度、使用額が生じることとなった。
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Research Products
(5 results)