2021 Fiscal Year Research-status Report
深共晶溶媒を用いた新たな分離場の創出と貴金属の革新的分離技術の開発
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21K12313
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
馬場 由成 宮崎大学, 工学部, 特任教授 (20039291)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅本 和寛 宮崎大学, 工学部, 准教授 (10274771)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新規抽出剤 / 深共晶溶媒 / Sc, Yの分離回収 / Pd, Rh, Ptの分離回収 / 廃電子機器 / 自動車廃触媒 / 資源循環型社会 / 分離・回収プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は「水素結合受容体」としてトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO(固体))を基体とし、一方、水素結合供与体として新たに開発した新規抽出剤のラウロイルサルコシン (NLS:固体)、およびステアリン酸(液体)などで作製される「深共晶溶媒」の探索を行い、それらの金属イオンに対する抽出選択性の評価を行った。 (1) 対象金属としては難分離性のSc/Fe/Yを含むNH4NO3およびNH4Cl水溶液からのpH依存性を調べ、それら金属の相互分離について詳細に検討した。その結果、TOPO(固体)を基体として、いくつかの深共晶溶媒(DES(液体))を作成することに成功した(特許申請中)。 ここでは、ステアリン酸とTOPOとの深共晶溶媒によるSc/Fe/Yの分離性能について述べる(Anal. Sci.に投稿中)。この系では低pHでは“協同効果”と高pHでは“拮抗作用”が働き、TOPOおよびステアリン酸の単独溶液(含むトルエン)よりもSc>>Fe>>Y のように分離効率(選択性および抽出率)が格段に向上した。 (2) 一方、貴金属については難分離性であるPd/Pt/Rhの塩酸溶液および硝酸溶液からの相互分離について検討した。NLS(固体)を基体として、T2EHA(トリス-(2-エチルヘキシル)アミン)(液体)、TOPO(固体)、TBP(液体)などとの抽出剤との組み合わせることでDES (液体)の作成に成功した。 ここでは、NLS+T2EHAのDESによるPd/Rh/Ptの混合溶液からの分離性能について述べる。本系ではベースメタルに対する貴金属の選択性が明らかとなった。特に高塩酸濃度領域で深共晶溶媒ではRh=Pt>>Pdの結果が得られており、アミン単独の抽出選択性 (Pd=Pt)とは大きく異なっている。これは深共晶溶媒の生成によるものであると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は「水素結合受容体」としてTOPOを基体とし、「水素結合供与体」として新規抽出剤であるNLS、およびステアリン酸等との組み合わせで作製されるDESの探索を行い、それらの金属イオンに対する抽出効果の評価を行った。 (1) TOPO(固体)を基体とし、固体-固体、固体-液体の組みわせることによって、常温で液体のDESを作成することに成功した。 (Solv. Extr. Ion Exch., 39 (5-6), 573-583 (2021))また、ステアリン酸とTOPOとのDESによるSc/Fe/Yの分離性能について検討した。この系では単独溶液よりもSc>>Fe>>Y のように分離効率が格段に向上した。低pH領域ではTOPOによる“協同効果”によってScがより低pHから抽出され、高pH領域ではステアリン酸による“拮抗作用”が働き、FeとYがより高いpHから抽出された。 (2) 一方、難分離性であるPd/Rh/Ptの相互分離およびベースメタルとの分離では NLS(固体)を基体とし、T2EHA(液体)、TOPO(固体)、TBP(液体)などとの抽出剤との組み合わせによって常温で液体であるDESの作成に成功した。 初年度はNLS+T2EHAの深共晶溶媒によるPd/Rh/Ptの三成分を含む溶液を用い、相互分離について検討した。本抽出系ではベースメタルに対する貴金属の選択性が明らかとなった。さらにPd/Rh/Pt間の相互分離については、高塩酸濃度領域でDESではPt>>Pdの結果が得られ、アミン単独の抽出選択性(Pd=Pt)とは大きく異なっている。これはDESの生成によるものであると期待される。現在、①NLSとT2EHAとの相互作用による混合抽出剤の平衡、②T2EHAと貴金属との平衡反応、および③NLSと貴金属との反応平衡などを考慮して、その定量化を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度から、本プロジェクトの本質である「貴金属の抽出メカニズムの解析・定量化」を目的にする。そのためにはこれらの金属の抽出序列をRh>>Pt>>Pdに分離する分離場の創出が肝となる。今までにRhに対して高い選択性を示した工業用抽出剤は開発されていない。したがって、貴金属の工業的回収プロセスではPt やPdはそれぞれTBPやDHS (ジヘキシルスルフィド) による抽出によって分離回収されているが、Rhは最後に残留物として分離回収されている。このようにPd/Rh/Ptの分離回収には複数の抽出剤を必要とし、処理工程が長く、コストがかかるなどの問題点がある。また、大量の揮発性有機溶媒を使用するなど環境的な問題点も抱えており、これらの解決法が求められている。 解決法として、従来から使用されている工業用抽出剤同士を組み合わせて、環境調和型、かつ低コストの“抽出剤”兼“有機溶媒”となる新たなDESを創出し、その特性を巧みに利用した難分離性貴金属(Pd/Rh/Pt)の高選択的な抽出分離技術の開発を目指す。DESの組み合わせを考える場合に重要なことは、“協同効果”を発現すると期待されるアミン系の抽出剤および硫黄原子を含んでいる硫黄系の抽出剤を中心にして、一方では“拮抗作用”を発現すると思われるアルキルカルボン酸やリン酸化合物との組み合わせになる。 本研究と類似した研究として“イオン液体”による金属抽出分離に関する研究報告例は多数あるが、本研究との相違点は、①合成(調製)が非常に容易であること、②原材料が安価であること、③低毒性であることなどがあげられ、DESはイオン液体よりも低コストでかつ環境調和型の抽出溶媒となる。さらに、我々が見出したDESが難分離性の金属間の分離能を向上させる機能は、様々な金属分離系へ応用できると考えられ、これまでにない次世代型の抽出分離技術シーズの創出が期待される。
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Causes of Carryover |
今年度から、本プロジェクトの本質である「貴金属の抽出メカニズムの解析・定量化、および実用化」を目指して検討する。そのためにはこれらの金属の抽出序列をRh>>Pt>>Pdに分離する分離場の創出が肝となる。解決法として、従来から使用されている工業用抽出剤同士を組み合わせて、環境調和型、かつ低コストの“抽出剤”兼“有機溶媒”となる新たなDESを創出し、その特性を巧みに利用した難分離性貴金属(Pd/Rh/Pt)の高選択的な抽出分離技術の開発を目指す。DESの組み合わせで重要なことは、“協同効果”を発現すると期待されるアミン系の抽出剤および硫黄原子を含んでいる硫黄系の抽出剤を中心にして、一方では“拮抗作用”を発現すると思われるカルボン酸やリン酸のアルキル化合物との組み合わせになるであろう。調製したDESを用いて、①ベースメタルおよび貴金属に対し、酸濃度依存性・温度依存性・逆抽出試験等を行い、基礎となる抽出データを集積する。これらを基に、②協同効果・拮抗作用が機能しているか、どのような抽出錯体が生成しているか等を解析し、抽出メカニズムを明らかにする。最終的には、③廃棄物からの難分離性貴金属間(Pd/Pt/RhやAg/Pd等)の分離回収を想定し、最適なDESの組成や抽出条件の最適化を図った上で、DESの耐久試験も併せて行う予定である。そのため、研究補助員の雇用も含めて予算を使用する計画である。
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