2022 Fiscal Year Research-status Report
野生動物による「人との棲み分け行動」の成功・不成功はどのように決まるのか?
Project/Area Number |
21K12319
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高畠 千尋 北海道大学, 獣医学研究院, 客員研究員 (50771052)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 野生動物の適応行動 / 人里周辺の景観構造 / 生息地選択 / 地域個体群保全 / 野生動物との共存 / 人との棲み分けの検証 |
Outline of Annual Research Achievements |
農地・林地・集落周辺を生息地の一部として利用するヒグマによる「人との棲み分け行動」を検証するため、これまでヒグマの実際の利用地点と移動行動を高精度で把握できるGPS測位データの収集を収集してきた。具体的には北海道大学中川研究林内で5月~11月の間に捕獲檻を設置し、今年度は5頭のヒグマを捕獲したが、そのうちの1頭は首輪装着できない幼獣で、ほか2頭は捕獲後死亡し、GPS首輪が装着できたのは成獣メス2頭のみとなった。前年度までの捕獲個体と合わせると、これまでに合計7頭のヒグマにGPS首輪を装着することができた。今年度はそのうち3シーズン以上のGPS測位データを得られた4頭について、季節ごとの行動圏サイズ、一時間あたりの移動距離の変化など、移動行動を知るための貴重な定量的データを得ることができた。そのうちの1頭の若いオスは、10月~7月までの冬眠期間を除く約5か月の間に、623㎞以上移動し、その行動圏は1352.31 km2に及び、中川町、遠別町、天塩町、初山別村、音威子府村、美深町の7町村を含む広大な範囲を含んでいることが判明した。また、開けた農地を横断したのは3回のみ、全て夜間であり、最小限の距離で横断できる場所を選ぶなど、「人目を避ける行動」をしていたことが示唆された。 一方で、これまでの捕獲個体中、最も広く移動した個体の行動範囲をもとに、北海道北部の調査対象地域を特定化した。ヒグマの生息地の選択性に影響を与えると予測される地形(標高・起伏度・土壌水分・日射量)・植生・人為景観(道路・鉄道・居住地)など環境要因のGIS(地理情報システム)データを、対象地域を含む範囲で整備した。植生については、ヒグマの食性や人為景観への回避行動に関する既往研究をもとに、環境省植生調査データベースを再分類して作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
過年度までは、捕獲個体に装着したGPS首輪が早々に脱落してしまう事態が起こり、期待していた年間を通した移動行動データが得られなかった。そこで本年度から、成長著しい亜成獣のオスにはGPS首輪を装着しないこととし、成獣のメスやオスには、首輪脱落の最大要因だったスペーサーを付けずに首輪装着することとした。しかし一方、捕獲効率は思ったより向上せずに秋季遅い時期に5頭の捕獲にとどまり、そのうちの1頭は当歳児のメス、2頭は原因不明のまま死亡し、結局GPS首輪を新たに装着できたのは2頭のみであった。このまま順調に2頭のデータが得られれば、来年度には合計6頭のGPS測位データが得られることになったが、目標の8頭以上の年間を通した個体データを得るためには、今後、5頭以上の捕獲が必要な状況である。低密度で生息するヒグマを捕獲することの難しさがあるが、来年度にむけて、捕獲効率をさらに向上させ、捕獲個体の死亡リスクを最小限にするための措置を講じて、モデリングに必要な移動行動データを取得する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きヒグマの捕獲を続け、GPS首輪装着個体を増やし、年間に及ぶ移動行動データを取得する。同時に、これまで11頭の捕獲のうち3頭が死亡したことを重く考え、捕獲個体に対する動物福祉上の配慮を強化する予定である。大学研究林の技術職員の協力のもと、ヒグマのような大型の野生動物を継続的に捕獲し調査した事例は、国内でこれまで存在しなかった。そういう意味で、本研究はヒグマの安全な捕獲・放獣技術を検討するまたとない機会となった。すでに捕獲・放獣マニュアルを作成しつつあるが、大学研究林での調査技術のポテンシャルとして、今後、技術成果発表の機会を持ちたいと考えている。 本研究では、ヒグマによる「人との棲み分け行動」の成功・不成功を決定する景観要因を探ることを目標としている。今年度は先行して、既に得られた4頭のヒグマについて、環境要因データの精度をあげつつ、個体ごとの生息地選択モデルを構築する。これまでの検討項目として、ヒグマ駆除地点データ収集が残っているが、北海道内全域の精度の高い位置データは存在しないことが判明した。対策として、ヒグマの移動行動の調査報告をとおして、捕獲個体が主に利用している市町村の行政関係者との連携を構築して、ヒグマ駆除地点についての聞き取り調査をする予定である。
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Causes of Carryover |
今年度では必要な物品類はほぼ装備できたが、研究発表に関連する費用が残った。次年度では、論文投稿などに必要な費用として使用する予定である。
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