2021 Fiscal Year Research-status Report
都市生態系における外来種および適応在来種の都市進化生態学的分析
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21K12327
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
冨山 清升 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 准教授 (30272107)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 都市生態学 / 陸産貝類 / 都市進化学 / 都市生態系 / 遺伝的分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
鹿児島県は本土と26の有人島, 合計605もの離島が南北およそ600kmにわたって連なっており, 本土と南西諸島では属する気候帯も異なる. それにより非常に多様な生態系が広がり, 多くの動植物が分布している. その中でも陸産貝類は移動性が乏しく, 奄美大島をはじめとした多くの離島で様々な固有種が発見されている. しかし離島を調査地とした研究に比べて, 鹿児島本土を対象とした研究は少ない. また, 都市が生物群集に与える影響に関する研究, つまり都市生態系の研究は日本ではほとんどされていない. 都市生態系における陸産貝類についての研究はおそらく本研究が初となる. 近年では鹿児島本土各地で以前は農地であった土地や生物多様性の高い地域の都市開発や高速道路の敷設が進んでいる. 都市や大きな道路の存在はたとえ地続きであっても, 河川や渓谷と同等の地理的隔離の効果を陸産貝類に与えることが予想される. こうした現状から, 都市化はすでに現在の鹿児島における陸産貝類群集に何らかの影響を与えていることが考えられる. そこで, 本研究では, 鹿児島市北部, 鹿屋市南部, 奄美市北部から中央部の3つの地域で合計10地点を調査地とし, 本土と離島間での陸産貝類群集の比較, 本土内での比較, そして同じ地域内での比較を行った. 調査方法は見つけ取りを行った後, 目視での発見が困難な微小貝の採集のために調査地の土壌を持ち帰った. 持ち帰った土壌は研究室で乾燥させ, 双眼実体顕微鏡を用いて微小貝の種同定を行った. その後, 採集した陸産貝類をもとに野村・シンプソン指数を算出し, 都市化による陸生貝類への影響の有無を明らかにすることを目的とし, 研究を行った。 初年度は、実態の把握につとめ、実際の野外調査を行い、結果を分析した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
都市生態系の進化生態学的な調査はほとんど行われておらず、特に都市化と陸産貝類の関係性についての研究はおそらく本研究が初となる。鹿児島県における近年の都市開発は移動性に乏しい陸産貝類に地理的隔離のような影響を与えていると考えられる。陸産貝類の都市生態系における生態の状況、進化過程の状況に関して、調査研究を行った。 まず、都市として、鹿児島県本土にいては鹿児島市街地を、離島部においては奄美市街地を調査場所として選定した。市街地の中で、遺伝子プールを保持する生息場所として島的に存在する都市公園や社寺林を選択し、市街地周縁の自然林環境と動物相を比較した。それぞれ開発度合いが異なる奄美市、鹿児島市、鹿屋市の3地域10地点で採集を行った。採集した陸産貝類は種同定を行い、その後各調査地点間で野村・シンプソン指数をもとにした類似度を求め、クラスター分析を用いて群平均法でデンドログラムを作成した。その結果、3目16科33属50種1459個体の陸産貝類が記録できた。そのうち3種は外来種である。開発が進んだ地域では微小貝の割合が低下している。デンドログラムではおおよそ地域ごとにクラスターができたが、開発が進んだ地域ほどクラスター間距離の最低値が増加していた。これは同地域内での調査地点に生息する陸産貝類群集の類似性が低いことを示している。分析の結果、都市開発が進むほど同地域内での類似度が低下していることが分かった。従って、都市化は陸産貝類に移動を妨げる島嶼に似た環境を与えると考えられた。都市内における狭い範囲での隔離は容易にその地点の陸産貝類相の変化を引き起こしていると推定された。 今年度の成果は、投稿論文にまとめ、その内容を投稿した.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)固有種の陸産貝類の生息現況調査と固有種が都市環境にどのように適応し、定着しているのか生息現況を調査する。【背景】陸産貝類は、原生の自然環境下における生息種数よりも、都市周辺のような人為環境の強い地域の方が、数が多いという変わった性質が知られてきた。また、本来は原生林に生息しているはずの在来種が一部の都市環境にも進出していることから、在来種の遺伝的性質が変化し、都市環境に適応した結果、都市周辺の攪乱地に生息する在来種が生じている可能性も示唆されている。しかし,都市地域におる生物分布の調査はどの生物群でも抜け落ちた調査分野である。【方法】南九州から北部南西諸島において、都市地域とその周辺の在来自然環境の保全された地域の間での陸産貝類相の正確な分布調査を行う。特に両地域間の緩衝地帯の生息現況調査にも力点を置く。
(2)外来種陸産貝類のDNA分析による遺伝的多用性の程度を調査研究する。 【背景】九州南部から北部南西諸島にかけての地域には国外外来種や国内外来種も侵入定着している。アフリカマイマイは1930年代の日本への導入当初は10個体程度だったことが解っており、遺伝的多用性は非常に低いと予想されていた。しかし、筆者らのDNA分析に基づく先行研究では、遺伝的多様性は均質では無いという結果が分かっている。また、オナジマイマイでは、固有種のパンダナマイマイとの交雑により遺伝子浸透が生じていることも判明している。既に、一部の外来種陸産貝類においては、都市環境における遺伝的進化が生じ始めている可能性が強く示唆されている。【方法】RAPIDプライマー法を用い、簡易的に各地域の外来種各種のDNAの遺伝的多用性を把握する。その上で、mtDNAのD-loop (550bp)をPCR増殖し、塩基配列を比較することにより、遺伝的な独自進化が生じているのかどうかを検討する。
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Causes of Carryover |
投稿論文の超科ページ代金、別刷作成代金、および、pdfファイルの製作代金を予算として計上していたが、論文を掲載する雑誌の発行が年度をまたいで延期されたため、支出が無くなった理由に因るため。
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Remarks |
鹿児島大学リポジトリに2021年および2022年に論文発表した論文が全文掲載されている。
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Research Products
(12 results)