2022 Fiscal Year Research-status Report
「コロナ禍」前後におけるドイツの難民・移民に対する意識と政策の変化に関する研究
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21K12379
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
畔上 泰治 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (70184174)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 帝国市民 / Reichsbuerger |
Outline of Annual Research Achievements |
1.概要:令和4年度もコロナ禍により海外への渡航が制限されていた。そのためドイツでの実地調査および海外の研究者を交えた対面でのシンポジウム・意見交換等の実施は見送った。それに代えドイツの研究者との接触、資料・情報収集はインターネットを通して実施した。他方において、対面による国内研究者との意見交換、資料・情報収集は国内の移動制限が緩和された年度末に実施した。 2.ドイツ新政権の移民・外国人政策に関する研究:2021年のドイツ議会選挙により誕生したショルツ政権における移民・外国人政策の位置づけを分析した。とりわけ社会民主党、緑の党、自由民主党の連立下にあるショルツ政権が前メルケル政権の移民政策をどのように評価し、コロナ禍での政策に活かし、またロシアの攻撃を逃れたウクライナ難民の受け入れをどのように実施しているかに関して研究を進めた。 3.非接触型社会における、移民・外国人に対するドイツ市民の意識の分析:コロナ禍において外出を控えたドイツ市民は、移民・外国人と直接接触する機会が減少した。こうした日常生活の中で発生した、外国人・移民に向けられた犯罪の状況とその内容の変化を分析した。あわせて2022年12月に発覚した極右勢力(Reichsbuerger:帝国市民)による政府転覆計画を分析し、ドイツ極右勢力の対人認識・評価における民族帰属性の位置づけ、ならびに外国人・移民に対する彼らの不満の内容に関して研究を進めた。 4.コロナ禍における学校教育状況に関する研究:コロナ禍により学習環境に大きな変化が生じた。オンライン授業の進展、図書館等各種学習施設の利用制限により、児童・生徒の学力格差にはどのような変化が生じたかを、とりわけ移民を背景に持つ児童・生徒の状況に着目し、資料収集と分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.コロナ禍による行動制限、とりわけ海外渡航制限のために本研究対象国ドイツにおける資料収集や専門家に対するインタビュー、学校等の教育関連施設への聞き取り調査訪問は実施できない状況にあった。そのためこれまではインターネットを中心手段として資料収集、関連施設・研究者へのコンタクトにより研究を進めてきた。しかし、2023年になりコロナをめぐる状況が改善に向かい、諸行動に関する規制緩和が行われたため、まず2023年春に国内における出張を通して、研究者へのインタビュー、情報・資料収集を実施した。これにより研究方法のチェック、ならびに資料収集の充実が進み、研究に前進が見られた。
2.同時にまた、2023年3月以降ワクチン接種証明、出入国時における手続き等の緩和、イベントの開催・参加者制限等に関する規制の緩和が実施されたことに伴い、ドイツでの現地調査の実施、国内外の専門家・研究者も参加する研究会・シンポジウム等の実施の実現性が高まった。こうした一連のコロナ禍に対する政府の方針の変化により、2023年度においては本研究対象国ドイツにおける調査の促進が期待され、またこれまでに得た資料をもとに分析した研究成果の発信に向けた準備が整うものと見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の概要 1.非接触型社会状況下における、移民・外国人に対するドイツ市民の意識の分析:2022年に発覚したドイツ極右勢力による政府転覆クーデター計画に関する分析を続行する。とくに極右勢力「帝国市民」(Reichsbuerger)組織に関して、その成立の背景、変遷、人的・思想的状況に注目して研究を行う。また政府のコロナ政策に対する彼らの不満、彼ら独自の具体的な対抗手段に関する主張を分析し、ドイツ国内に住む外国人・移民系住民に対するドイツ極右勢力の主張がコロナ禍の前後でどのように変化しているかを分析していく。
2.コロナ禍の下で規制された対面的文化活動を代替する活動に関する調査の実施:コロナ禍の下で、学校における対面授業の制限、それに代わるオンライン授業の実施、また図書館等の教育関連施設の使用制限が行われた。今後の研究においては、若年者に対する教育において重要な位置を占める国語教育、とりわけ文学作品を通したドイツ文化との触れ合いの促進に注目し、それに関連する文化活動を分析する。とりわけ文化・教育活動の衰退を懸念して「ドイツ文学基金」が計画した文化推進プロジェクトに焦点を当てる。この基金が実施した出前講演・朗読会、オンラインによる諸活動の考察を通し、作家・文学関連機関がコロナ禍をどのように捉え、若年者の文学離れに対抗しようとしたかを分析する。
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Causes of Carryover |
1.前年度に続き、令和4年度もコロナ禍により本研究は様々な制限下に置かれた。とりわけ人的接触・移動には大きな制限があったため、ドイツにおける現地視察、研究者との交流は実施が困難であった。そのため、本研究の遂行は主にインターネットを活用した手段で実施した。その結果、当初計画していたドイツへの出張旅費、国内外の研究者を招待してのシンポジウム・意見交換会の開催を目的としていた予算は未執行となった。 2.令和5年春になり、コロナを理由とした行動制限減が大幅に緩和・撤廃されたことに伴い、過年度に実行する予定であった上記研究を遂行する環境が整ってきた。これらの社会状況の変化を踏まえ、令和5年度にはドイツにおいて実施する研究を中心に予算を執行する予定である。
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