2022 Fiscal Year Research-status Report
Historical Study on Mapping and Land Policy in Bhutan and its Adjacent States
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21K12382
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
月原 敏博 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 教授 (10254377)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ブータン / 土地制度 / 地籍 / 測量史 / 土地法 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、第一には、ブータンの土地政策史・国土開発史を通史として記述する際の重要な基礎となる、第3代国王の治世以前の法体系と統治体制を把握するための重要資料の収集とその読解・翻訳作業を行った。 すなわち、1)旧憲法たる1957年基本大法典(ティムシュン・チェンも)の翻訳確定と注釈文の作成作業を継続してその作業完了に近づけ、2)第4代国王のもとで旧土地法が1979年に成立するよりも前の公的記録たる官報KUENSELのバックナンバー(1967~1979)の画像データの入手とその読解、3)基本大法典の成立前後を含め、国政の変化が激しかった第2代~第3代国王の治世下で国政に深く携わった官僚のライフヒストリーと彼が関与した税制変革など国政の流れを詳述したKarma Ura氏の著作の読解と翻訳、4)1979年旧土地法以前の地籍制度とその歴史を調査しゾンカ語でまとめたCBS論文の読解と翻訳、である。 これらの研究作業は、第4代・第5代国王のもとで実施されることになる1979年旧土地法・2007年新土地法の成立以前のブータン王政の初期条件を把握するうえで重要な意義をもち、すでに翻訳等を終えた新旧両土地法以降の時代と接続することで「通史」を描くために必要不可欠のパートをなしている。 第二には、ブータンを含むヒマラヤ地域の地形図及び地籍図の作成という測量史的事実の側面について、インド測量局の記録と英国王立地理学会誌を中心に資料の読解を行い、とくに研究対象地域の中心を構成するブータン、シッキム、ネパールの領域内でのインド測量局による地形測量(Topographical Survey)の活動史に関する情報整理を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ブータンでは、政府決定によって令和4(2022)年夏より事実上の外国人滞在税といいうるSDF(Sustainable Development Fee、1泊当たり米ドルで200ドル)が観光入国者に対してだけでなく観光目的以外の外国人入国者にも幅広く課される政策変更が生じ、外国人研究者・教員にとっては、国内調査研究を含め大学間交流やカンファレンス参加のための入国にすら大きな支障が生じることとなった。 主にこの資金面に多大に影響する理由により、令和4年度のブータン調査はごく短期間のものとならざるを得なかった。そのため、コロナ明けのブータン訪問で当該年度に実施予定であった2つの点,すなわち、1)現地協力者の協力を得て行う土地関連法規3点の翻訳の厳密かつ最終的な翻訳文及び注釈文の作成完了,及び,2)キドゥによった農村開発地域事例の調査、のうち、後者の現地農村調査は実施できないまま懸案の課題として残らざるを得なくなった。 特殊な国情といいうるこのSDFの件は、政府方針の変更等により次年度以降に軽減されるか研究者個人とブータン国内の研究協力者の努力や工夫でクリアできる可能性もあるが、次年度以降もこれに依然として強く縛られる結果となる場合には、前記2)の現地農村調査については研究上のウェイトを下げるか、あるいは、方法的にも、現地訪問・現地観察には依らない代替的な方法で研究協力者のインフォーマントから収集した情報を基づく概略的調査研究にとどめる必要も生じる可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度以降は、当初の予定では、海外調査についてはブータン以外のネパールと旧シッキムにおいて、土地制度に関わる現地調査(研究機関と政府オフィスの訪問による資料収集と聞き取り、現地語資料の翻訳、農村地域事例観察)を行う予定であった。しかし、ブータンでは上記のSDFに関わる課題が残っており追加調査が望まれる一方、SDFを軽減またはクリアできるか否かの状況によってはブータンの現地農村事例調査の研究ウェイトを下げるのが適当となることもありうる。 ブータンと比較可能な形で行うネパールと旧シッキムに関する資料収集・整理と比較分析のための海外調査は必要不可欠であるが、とくに上記のSDFに関わる事情から、令和5年度においてはブータン以外の調査地での現地調査に配分する調査研究日数と予算資源についてはベストパフォーマンスが得られるよう柔軟に調整して計画・実施する。 また、研究成果、とくにブータンに関するそれの一部(発表、論文、翻訳を含む)については、その公表・出版に漕ぎつけたい。
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Causes of Carryover |
初年度である令和3年度に地図画像データ処理と出版物の編集のために研究室のパソコンを1台新調する予定であったが,年度初めに本研究計画とは別の教育支援経費が得られたことでそれが新調できたため,本科研費から支出する必要は当分の間はなくなった。 2年度目である令和4年度は,上記SDFに関わる事情が生じるなどして現地滞在日数がごく短期間にとどまったこともあって、当初予定した現地語翻訳のための現地研究協力者への謝金の支払いが次年度以降にずれ込むこととなった。
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