2021 Fiscal Year Research-status Report
「共生空間」生成を巡る比較研究:ユダヤ教徒の複合アイデンティティを軸として
Project/Area Number |
21K12435
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Research Institution | Tokyo International University |
Principal Investigator |
吉田 量彦 東京国際大学, 商学部, 教授 (30614747)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田村 愛理 東京国際大学, 商学部, 名誉教授 (50166584)
川名 隆史 東京国際大学, 経済学部, 教授 (60169737)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ユダヤ人 / マイノリティ / アイデンティティ / 移民 / 越境的ネットワーク / 共生 / 多元性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017~2019年度科研費基盤研究(C)(一般)「レリギオとレギオの狭間:セファラディーム・アシュケナジーム・ミズラヒーム」(課題番号17K02033、以下「前・科研費」)から研究課題を部分的に継承して開始された本研究だが、開始年度となる2021年度は新型コロナウィルス感染症の数次にわたる感染拡大を受け、研究活動が大きく制約された。とりわけ感染のピークが夏と春先の長期休暇を直撃したことで、各研究者が予定していた海外調査はいずれも不可能となった。 吉田は、ユダヤ人哲学者スピノザとその周辺人物に関する研究を、評伝『スピノザ―人間の自由の哲学』にまとめ、2022年2月に講談社現代新書から刊行した。また、これまでいくつかの学会で発表したスピノザ受容史に関する研究成果を、2本の学術論文にまとめて刊行した。 田村は、前科研費でジェルバ島のユダヤ教徒とイスラーム正統派、イバード派との比較民間信仰研究を行い、その成果は既に昨年度にまとめた。その結果、島のマイノリティ/コミュニティがそれぞれの内部に亀裂を抱えながらも地域や国家を超えた国際的に広がる複数の集団ネットワークを有するという特徴に注目し、マイノリティの越境的集団ネットワークの構造比較に研究を進めた。 川名は、前・科研費から引き続き18-19世紀ポーランドのユダヤ人アイデンティティの変遷の過程を追った。2021年度は対象を20世紀に広げ、ロシア帝国の社会主義革命運動におけるユダヤ人の意識の変化を、「ユダヤ人ブント」という組織を例に探求した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」でも述べた通り、2021年度は新型コロナウィルスの数次におよぶ感染拡大によって海外調査が実質不可能となったため、各研究者は国内にとどまり、各自の研究の進展に努めることを余儀なくされた。また、同様の理由で対面での頻繁な意見交換が困難な状況ではあったが、それぞれ研究成果を研究会等で発表したり、刊行物として発信したりすることに努めた。この結果、各自の研究はそれなりに進展したものの、コロナ禍による研究活動への制約はやはり大きかったと言わざるをえない。 吉田は、前・科研費の定例研究会で数回にわたり行った調査報告を統合した、新たな論文を構想中である。2021年度は発信できた研究業績の数からみれば順調に推移したと言えるが、これは前・科研費の研究を現研究課題に発展的に引き継いだことによる。 田村は、ジェルバ島のイバード派とユダヤ教徒との民間信仰における相互浸透性を指摘し、さらに両コミュニティの越境的ネットワークや共生的経済活動などについて情報収集を進めてきたが、現地調査が不可能であるため研究遂行に制約を受けざるを得なかった。しかし、両コミュニティの比較から、マイノリティが集団として生き残るための越境的・複合的アイデンティティ構造に関する理論研究を進め、論稿を準備している。 川名は、ポーランド・ユダヤ人のアイデンティティの変遷の過程を追う方針を中心に据え、18世紀末のユダヤ神秘、19世紀の改革派の研究に続いて、20世紀の社会主義運動史の中でのユダヤ・アイデンティティの実現の過程を追った。その成果として論稿を準備中である、研究は相対的には順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
吉田は、ユダヤ人のアイデンティティ形成における墓地の役割について、ハンブルクでの調査結果を軸に独立の論文にまとめて発表する。また、ユダヤ思想関連の海外・国内研究者を研究会に招聘し、意見交換に努めることを企画している。 田村は、現地研究協力者と密接に連絡を保ちつつ、ジェルバ島でのインタヴューの対象を絞り込み、現地調査を行う。また、マイノリティ研究の理論的基盤確立のために、エスニシティ/アイデンティティをめぐる研究史を検証する。さらに従来の知見を国内マイノリティ問題と連携させていくために、アイヌや離島の越境文化圏との比較研究も進めていく。 川名は、ポーランド・ユダヤ人のユダヤ・アイデンティティの変遷の研究を継続させる。ロシア帝国領内のユダヤ人の革命運動におけるユダヤ・アイデンティティの考察を拡大し、シオニズムの労働運動を考察対象とする。 総じて言えば、研究課題の性質上、本研究には海外における実地調査と文献収集が欠かせない。また頻繁に研究会を開催して各自の研究成果を共有し、多元的共生社会が一時的にせよ出現した各地域の歴史的・社会的状況と、これを可能にした個々の人々のアイデンティティの構造を、それぞれ突き合わせる作業も不可欠である。言うまでもなく、これらの作業の可不可および成否は今後のコロナ禍の推移に大きく左右されるため、その都度の感染状況を注視しつつ、各時点で可能な限り最善と思われる共同研究のあり方を模索していきたい。
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Causes of Carryover |
理由:前述の通り、数次にわたる新型コロナウィルス感染症の感染拡大に見舞われた結果、各自が2021年度に予定していた海外での調査および文献収集が、すべて遂行不可能となったことによる。
使用計画:吉田は、ハンブルク・アルトナ地区での現地調査および文献収集を予定している。また、ユダヤ思想関連の海外・国内研究者を研究会に招くことを企画している。田村は、ジェルバ島への現地調査を予定している。また、マイノリティ/エスニシティ研究の理論検証、さらにアイヌ等国内マイノリティの 越境文化圏構築との比較研究を進めるため国内調査を行う。川名は、ポーランド・ワルシャワのユダヤ人歴史研究所での短期研修を予定しているが、コロナ禍の状況で不可能な場合は、世界に点在するユダヤ関係資料館等を調査して関連資料の収集に努めるともに、シオニズム労働運動に関する研究を進めるにあたっての基本軸の構築を目指す。
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