2022 Fiscal Year Research-status Report
The impact of aging and depopulation on livelihoods in rural and mountainous area of Thailand
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21K12441
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
澤田 綾子 (佐々木綾子) 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (90613810)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 東南アジア / タイ北部 / 過疎 / 高齢化 / 農地 / アグロフォレストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東南アジアでも高齢化の進行が速いタイを事例に、山間地における人口変動と土地被覆変化との関連を分析することを目的としている。また、山間地の森林・農地管理の変遷を、地域住民による生業と資源利用を軸に明らかにし、土地被覆変化をもたらす社会経済的・生態的要因を考察することを目指している。 2022年度には2度の臨地調査を行った。タイ北部チェンマイ県の8郡の市場や農村、郊外集落において若年層の就学・就労について聞き取り調査を行った。全体的に離農傾向が確認されたが、チェンマイ市に通勤可能な地域では農外就業をしながら週末に農業を手伝うケースが多い集落もあった。一方、すでに過疎・高齢化が進む山間部では、用益権を持つ土地を近隣の集落の住民に貸したり、生産物の管理を他世帯に委託し一部の売り上げを賃料とするなど、収入を確保している世帯が確認された。またタイにおけるコーヒー消費の増加とエコツーリズムブームが山間地に影響を及ぼしており、過疎・高齢化が進行する集落でもゲストハウスが建設されたり、耕作放棄地にコーヒーを導入したりと、近年の社会変化に適応する例もみられた。 またこうした柔軟な土地利用の受け皿となっているのがアグロフォレストリーと呼ばれる土地利用であることも確認された。森林を利用した農業の利点は土壌保全・水源涵養など農地保護だけでなく、多様な資源を内包することで生産者の生活を安定的に維持することでもある。労働力が減少する中でも農地やそこに含まれる資源を多様に利用することで、収入源を得ている現状は、アグロフォレストリーが現代社会においても持続的農業であることを示していると考えられる。この結果は四方篝・藤澤奈都穂・佐々木綾子(2022)「アグロフォレストリーとともに生きる」伊藤詞子編『生態人類学は挑む SESSION6:たえる・きざす』京都大学学術出版会. 41-93として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広域調査を実施できたことで、過疎・高齢化が山間地の比較的標高の高い地域に限定されるものではなく、北部の農村部に共通する傾向であることを確認できた。また観光業やコーヒー栽培を取り入れ雇用を創出している農村においても若年層の離村が続いている状況にあった。しかし雇用形態が日本と異なるため一時的に帰村することも頻繁に起こっており、日本の過疎・高齢化の進行とは異なる一面も確認された。また20年にわたり継続調査を行った集落でも悉皆調査を行い、集落構造の変化を長期的に観察することができた。一方、分析に適した衛星画像の入手が困難だったため植生の変化については分析を行えなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
臨地調査では引き続き農村部における過疎・高齢化の実態と地域ごとに考えられる要因を調査したい。またチェンマイ県各郡の人口データを分析することで、県全体の人口動態を明らかにしたい。地域・生業ごとの過疎・高齢化の実態を把握することを目的とする。また、山間地の過疎・高齢化が進行する農村の衛星画像を解析することで、森林景観に影響があるのか分析することを目指している。今年度の調査からは人口が減少しながらも集落内部での収入源が多様化していること、また土地に対する認識(賃貸や作物導入の経緯等)が日本とは異なる点だと考えられた。これらを具体的に日本の山間部と比較することで、今後東南アジア大陸部山間地の過疎・高齢化が農地にどのような影響を及ぼすのか、その特徴はどのようなものであるのか考察することを目指す。
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