2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on Peace and Tourism in East Asia in the Era of Augmented Reality
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21K12447
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Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
山田 義裕 放送大学, 北海道学習センター, 特任教授 (40200761)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 平和観光 / ピースツーリズム / 拡張現実 / 監視社会 / 偶有性 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度における本研究の実績の概要について、文献調査等に基づく理論研究の側面とフィールドワークや資料収集および分析などの経験的研究の側面の二つに分けて述べる。最後に、研究成果の公開などの社会還元の実績について触れたい。 文献調査に基づく研究については、前年度に引き続きメディアの進化と監視社会の関係についての研究を深めるととともに、新型コロナウイル感染症がWHOによりパンデミックと認定されてからの世界的な行動制限が社会に与える影響について、John Urryら切り拓いたモビリティーズ研究の観点から考察した。欧州で感染が始まった際、Giorgio Agambenが移動の自由は近代に確立した様々な自由のおおもとにあるという理由で、行動制限に強く反対する論陣を張った。この議論に触発されて、移動の自由の観点から「平和」のコンセプトを再考察するモビリティーズ研究の新た試みを開始した。 フィールドワークについては、新型コロナ感染症の影響により今年度も国内外の出張計画を思うように企画できなかったが、2023年に入ってから他の研究プロジェクトと連携する形ではあるが、広島と高松において二度の調査を実施することができた。『空爆論:メディアと戦争』(吉見俊哉著、岩波書店、2022年8月)の議論を踏まえて、メディアの進化が私たちの「まなざし」に与える影響について考察するために、戦争中に大がかりな空襲に見舞われた地域の戦跡や博物館展示を調査した。また、本研究は戦争と観光という一見相反するものが同居している場所を調査対象のひとつとしていることもあり、「毒ガスとうさぎ」の大久野島において次年度以降へ向けての予備調査を行った。 研究成果の社会への貢献に関しては、今年度から職場環境がかわったこともあり、放送大学の学生や同窓生、あるいは地域住民への講演会を通じて本研究を社会へと還元するようつとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況についても、理論研究とフィールド調査に分けて報告する。 文献調査を踏まえた理論研究については、講演会や共同研究調査の準備を進める中で、吉見俊哉の新刊『空爆論:メディアと戦争』の議論を踏まえ、ピースツーリズム研究に「視点論」「まなざし論」を新たな形で導入する可能性について探った。視点研究は研究代表者が長年取り組んできたテーマであるが(科研費課題番号20520345「視点現象の「心の理論」からのアプローチ」2008-2010年度等)、ピースツーリズム研究に視点論の観点から広義のコミュニケーション研究のこれまでの蓄積を活用する具体的方策について考察した。 また、広島大学平和センターの共同研究の一環として大久野島でフィールドワークを行い、本研究の中心的テーマである観光と戦跡の関係について調査を行った。大久野島は第二次世界大戦で使用する毒ガスを秘密裏に製造していた化学兵器の製造拠点であった。かつて「地図から消された島」と名付けられたこの島は、いまでは「うさぎの島」と呼ばれて多くの観光客が訪れている。観光客はたくさんのうさぎたちと戯れながら島をあるくのだが、その行く先々で毒ガス製造の痕跡を目にすることになる。大久野島での予備的調査では、本研究を進める上で貴重な材料を入手することができた。 一方、海外におけるフィールドワークは全くできず、そのため調査面ではやや遅れている状況である。今年度こそは当初から予定している韓国の済州島オルレの調査を行いたいと考えているが、感染症の再拡大により難しい場合は、大久野島や国内のオルレの調査へと切り替えざるを得ないかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の影響による行動制限がまだ続いており、予定していた海外への出張が思うように実施できず、出張に係る旅費及び関連経費も使用できなかった。次年度においては、行動制限の緩和のタイミングを見計らって韓国の済州島オルレの調査を行う予定であるが、感染症等で行動が制限される場合は、大久野島や国内のオルレの調査へと切り替えることを検討する。理論研究については、ピースツーリズム研究を(1)拡張現実化する監視社会の問題(2)メディアの進化と視点の問題(3)観光と戦跡の関係の問題、この3点から総合的に考察する予定である。 また、本研究は社会のアクチュアルな問題(感染症や国際情勢等)と密接に関わっており、専門研究の場での発表だけでなく、公開講演等を活用して広く一般の人たちへ向けて情報発信を行うことで社会還元により力を入れる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた国内外でのフィールドワークが実施できなかったため、次年度使用額が生じる結果となった。今年度は行動制限も緩和され、海外でのフィールドワークもこれまでよりは容易となることが予想されているので、当該経費は国内外のフィールド調査に充当する計画である。
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