2021 Fiscal Year Research-status Report
帝国と観光――満洲ツーリズムと在満日本人社会との連動に関する歴史的研究
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21K12463
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
高 媛 駒澤大学, グローバル・メディア・スタディーズ学部, 教授 (20453566)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 満洲 / ツーリズム / 観光 / 帝国 / 植民地 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度には、国会図書館や東洋文庫といった東京近辺の図書館などで資料調査を行いつつ、1906年の創設以降、在満日本人社会の重要な一翼を担ってきた南満洲鉄道株式会社(以下「満鉄」)が満洲旅行に果たした役割を中心に研究を進めてきた。 まず、満洲旅行の既存研究で看過されてきた、日本最古の民間旅行会社である「日本旅行会」(1905年創設)の活動に注目し、1927年から1943年にかけて日本旅行会が主催した満洲旅行の歴史を辿りながら、その実施過程において満鉄が行ったさまざまな支援や関与の実態を明らかにした。この研究では、戦前に発行された日本旅行会の募集ビラや会誌、記念写真帖などの一次資料を手がかりに、これまで手薄だった一般募集型満洲旅行に関する研究の空白を埋めるだけでなく、日本旅行会と満鉄との浅からぬつながりを実証することができた。この成果は「戦争とツーリズム――戦前における日本旅行会の満洲旅行」と題する論文として書き上げ、2022年2月に刊行された共著『戦時下の大衆文化』(KADOKAWA)のなかの一篇として公表している。 上記と並行して、満鉄が日本内地で展開した多彩な観光誘致策に焦点を当て、満鉄の果たした役割の重要性について確認する作業を行った。たとえば、新聞広告や雑誌記事などをもとに、1918年より東京に、その後大阪や下関などに設置された満鉄の無料斡旋機関「鮮満案内所」のメディア戦略を考察した。また、当事者の回想文や校友会誌の記録などを用いて、満鉄が行った学生向けの多様な優遇策や各種中等学校長会議の誘致活動などを検証した。この研究成果は、「戦前日本における満鉄の観光誘致」と題する論文としてまとめた。同論文は、2022年2月に刊行された共著『帝国日本の観光――政策・鉄道・外地』(日本経済評論社)に収録されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、コロナの影響で海外での資料調査ができなかったが、古書店での購入をはじめ、国会図書館や東洋文庫での閲覧調査、日本国内の研究機関の遠隔複写サービス、中国大陸や台湾、アメリカの研究機関が公開している戦前のデータベースなどを活用し、満洲旅行と在満日本人社会との連動に関する資料を可能な限り収集することができた。これらの資料の精読を通して、2021年度は、満洲旅行で中心的な役割を果たした満鉄の活動内容や、満鉄と日本旅行会とのつながりなどを明らかにし、研究成果を「戦前日本における満鉄の観光誘致」(『帝国日本の観光――政策・鉄道・外地』所収、日本経済評論社)と、「戦争とツーリズム――戦前における日本旅行会の満洲旅行」(『戦時下の大衆文化』所収、KADOKAWA))という二本の論文としてまとめた。 一方、満鉄の観光誘致に関する研究と並行して、在満日本人県人会や同窓会に関する一次資料の収集・整理を行った。これまでの満洲旅行の既存研究の多くは、学校や教育会側の記録資料をもとに、旅行者を送り出す側や旅行者側の分析に力点が置かれてきた。その反面、旅行者を受け入れる側としての在満日本人社会の役割については、十分に検討されていない。実際、満洲旅行の実施過程のなかで、満鉄やジャパン・ツーリスト・ビューロー(JTB)大連支部のような在満観光業者にとどまらず、在満日本人県人会や同窓会といった「同郷者ネットワーク」が、日本人旅行者の送迎、案内を引き受けたり、夕食会のもてなし等を行ったりするなど、極めて重要な役割を果たしていた。このような問題意識のもと、各種在満県人会や同窓会の規模、活動内容を解明しつつ、満洲旅行における在満日本人社会の果たした役割および満洲旅行が在満日本人社会に与えた影響などの分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、引き続き資料収集に努めるほか、満鉄やJTB大連支部といった在満観光機関とは別に、日本人の満洲旅行のもう一つの「受容基盤」ともいえる、在満県人会や同窓会に焦点を当てながら、日本人旅行者と在満日本人社会との間を結ぶさまざまな「帝国の同郷者ネットワーク」を解明していくことを目指す。 具体的な推進方策として、第一には、在満県人会や同窓会の活動内容の実態や果たした役割を明らかにする。第二には、日本人旅行者と在満日本人のまなざしの相互作用や現地中国人社会との接触過程などを検証する。第三には、満洲旅行という営みを通して、日本人旅行者と在満日本人社会との間にどのような複雑な関係性が構築され、またそれが内地と満洲という二つの社会にそれぞれいかなる意義をもたらしていたかを考察する。 上記の一連の作業と並行して、戦前における日本国内の同郷集団に関する歴史学の先行研究を渉猟しながら、同時期の台湾、朝鮮半島への植民地観光における現地日本人県人会および同窓会の活動との比較をも視野に入れつつ、満洲旅行と在満日本人社会の連動性の特徴を見極める。最終的には、満洲旅行における日本人旅行者と在満日本人社会との相互作用のダイナミズムを描き出すと同時に、その相互作用がどのように日本人の帝国意識と植民地社会の形成・変容に寄与していったのかを明らかにする予定である。 また、2022年度の一年間は、国立歴史民俗博物館の共同研究員に委嘱された。他分野の研究者と意見交換を行うことにより、一人で研究することでは得ることのできない、気づきや視点といったものを取り入れ、研究に厚みを加えていきたい。
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナの影響で、海外や東京近辺以外の日本国内の研究機関、図書館での現地調査を実施することができなかったため、予定していた出張旅費に使い残しが生じた。 2022年度はコロナの状況を見て、前年にできなかった海外調査や日本各地での現地調査や資料収集などに使用する予定である。
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