2021 Fiscal Year Research-status Report
The Impact of Craft Breweries on Tourism Development in Japan
Project/Area Number |
21K12490
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
畢 滔滔 立正大学, 経営学部, 教授 (70331585)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地ビール / クラフトビール / 衰退地域の再活性化 / 起業家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1990年代後半日本で創業した地ビールメーカーの発展が地域の活性化に及ぼした影響を明らかにした上で、地域の活性化に地ビールメーカーの発展が及ぼす影響について、日米比較を行うことである。本研究でいう地ビールメーカーとは、大手ビールメーカーまたは飲料水メーカーから独立しており、小規模で伝統的な製法または地域の特産品等を原料としてビール(発泡酒)を製造するメーカーである。 2021年度日本において、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、飲食店および観光関連施設は営業時間の短縮等を要請された。こうした状況の下、2021年度は調査の重点を米国におき、地ビール産業の発展と衰退した地域の再活性化の関係について、米国ラスベルトの代表的都市として知られるオハイオ州クリーブランド市に関する事例研究を行った。事例研究の結果、次の5つのことを明らかにした。第1に、地ビールメーカーは、荒廃した空き物件を修繕して再利用し、これらの建物内で多様かつ質の高いビールを提供することにより、オハイオシティ地区というクリーブランド市内でも最も荒廃した地区に地元客と観光客を呼び戻した。第2に、地元の食材や地元の生産物の活用することが、地元企業とりわけ中小企業の支援へとつながっている。第3に、自社のビールと飲酒空間を地元の文化や歴史と関連付けたことで、住民の地元に対する愛着が高まると同時に、同地域の特徴と素晴らしさが観光客にも認識されるようになった。第4に、クヤホガ川の汚染を除去する活動やオハイオシティファームの開設・運営を通じて、地域住民のクオリティオブライフの向上に貢献している。最後に、地ビールメーカーの成功は、「大手企業に勤務することこそがあこがれの対象であり、リスクをとって起業家になることを軽視する」というクリーブランド市の伝統的な社会規範を覆すことに貢献している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は飲食店および観光関連施設の再開が進んだ米国に調査の重点をおき、地ビール産業の発展と衰退した地域の再活性化の関係について、米国ラスベルトの代表的都市として知られるオハイオ州クリーブランド市の事例を調査した。調査の結果、地ビール産業の発展は、衰退した地域の再活性化に直接的な影響と間接的な影響両方を及ぼす、ということを明らかにした。直接的な影響として、(1)空き建物の再利用、(2)他の中小企業の発展、(3)住民のクオリティオブライフ(QOL)の改善と、(4)観光目的地の開発の4つが挙げられる。一方、間接的な影響として、地ビールメーカーの成功は、「リスクを嫌う」文化を覆し、リスクに対して寛容な態度と、起業および起業家に敬意を示す新しい文化の醸成を促進する、ということを挙げられる。地ビールメーカーは、醸造に関するイデオロギーおよび醸造方法に関してイノベーションを起こした。Lamertz et al. (2005)によれば、醸造に関するイデオロギーや醸造方法は(1)科学的制御と規模の経済、(2)職人技と専門性の2つに分化しているという。大手ビールメーカーは前者を重視し、地ビールメーカーは後者を重視している。第二次世界大戦後、地域の伝統的なビールメーカーの多くが大手ビールメーカーとの競争に敗れた。1980年代になると、大手ビールメーカーのシェアは米国ビール市場全体の9割以上を占めるに至った。こうした状況の下、あえて大手ビールメーカーとは正反対の製品コンセプトや醸造方法を採用し、小さな醸造所を起業した地ビールメーカーにとって、リスクはかなり大きなものであったと推測される。地ビールメーカーの成功は、起業および起業家に敬意を示す新しい文化の醸成を促進する。この点を指摘したことは、本研究の重要な理論的貢献であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度日本においては、新型コロナウイルス対策の「まん延防止等重点措置」が解除されたものの、飲食店に求めている人数制限を継続する地域があり、また、海外からの観光客を受け入れていない。こうした状況の下、2022年度は米国に調査の重点をおき、観光地域づくり法人(DMO)と地ビールメーカーとの協同事業である「地ビールパスポート」について調査を行う。当該事業の仕組みは次の通りである。DMOは地域の地ビールメーカーの協力を得た上で、地ビールメーカーをリストアップして「地ビールパスポート」を制作し、観光客に無料で配布する。観光客はパスポートに掲載される地ビールメーカーのパブ・レストランを訪れたり、その商品を買ったりするとそのメーカーのスタンプをもらえる。すべての地ビールメーカーのスタンプをもらった観光客はパスポートをDMOに郵送すると、DMOから記念品を贈られるという仕組みである。地ビールパスポート事業は、地ビール産業の発展および観光地域づくりを促進する手段として米国各地で採用されている。2022年度は、地ビールパスポート事業の運営方法および地域の再活性化に及ぼす影響について調査を行う予定である。具体的には、当該事業の運営方法と観光客の利用状況について現地調査を行い、また、地ビールメーカーの経営者とDMOの担当者に対するインタビュー調査を実施する。 2023年度および2024年度は、研究の重点を日本におき、①北海道、②三重県、③長野県、④兵庫県、⑤静岡県、⑥神奈川県について事例研究を行う。これらの6つの道・県を事例研究の対象として選んだ理由は、2000年までに創業し、今日まで生き残っている地ビールメーカーの数が全国で最も多いからである(畢, 2000)。事例研究では、地ビールメーカーの創業者・経営者、地域の観光協会・DMO、市役所・町役場の担当者に対するインタビュー調査を実施する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は次の通りである。2020年から新型コロナウイルス感染拡大に見舞われ、日本の地ビールメーカー各社の出荷量が大きく落ち込み、現在も2019年の水準に回復していない。実際、東京商工リサーチが行った「地ビールメーカー動向調査」によると、日本の主要地ビールメーカー70社の2020年1-8月の総出荷量は前年同期比25.1%減、主要地ビールメーカー75社の2021年1-8月の総出荷量は前年同期比を7.7%上回ったという。飲食店やレストラン等業務需要の大幅かつ長期にわたる減少、観光需要の喪失、地ビールフェスティバル等イベントの開催中止・延期により、日本の地ビールメーカーの多くは経営不振に陥り、解散や廃業に追い込まれる企業も出始めた。こうした状況の下、2021年度予定されていた日本の地ビールメーカーに対する質問票調査を実施しなかった。その理由は、地ビールメーカーの発展が地域活性化に及ぼす影響を問う同調査に、回答してもらえる地ビールメーカーの数は少ないと判断したからである。質問票調査費を支出しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、2022年度米国「地ビールパスポート」事業に関する現地調査で使用する予定である。
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