2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K12506
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Research Institution | Tokyo Seitoku University |
Principal Investigator |
水谷 清佳 東京成徳大学, 国際学部, 准教授 (50512117)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 妓生 / 三牌 / 三牌出身 / 新彰妓生組合 / 大韓帝国期 / 植民地期 |
Outline of Annual Research Achievements |
「補助事業期間中の研究実施計画」において2021年度については妓生と三牌の概念区分に関する研究を行うこととした。そこで本年度は大韓帝国期における三牌をめぐる環境の大きな転換点である1908年を基準に、大韓帝国期を2つの期間(第1期:1897年~1908年、第2期:1908年~1910年)に分類し、大韓帝国期に発行された15種類の近代新聞、雑誌、個人文献、官報、法令、公文書、警察文献、警察統計など当時の妓生と三牌に関する記事及び資料を可能な限り網羅して大韓帝国期当時の妓生と三牌の法的・社会的実体と概念の違いを実証的に明らかにした。 既存の妓生及び三牌に関する研究では、三牌を妓生の範囲に含める学術的な誤謬が繰り返されてきたが、本研究により三牌は①1899年三牌を含んだ娼女の廃止(妓生除外)②1904年三牌の集娼(妓生除外)③1906年三牌の性病検査(妓生除外)④1907年三牌の売淫税徴収(妓生除外)⑤1908年「娼妓団束令」による公娼制度への編入(妓生は「妓生団束令」により近代式妓生制度へ再編)などのように大韓帝国政府と統監府から芸娼妓として統制・管理されており、法的・政策的・社会的認識の面においてむしろ「妓生」とは異質的な属性を持っていた集団だったことから、朝鮮社会と朝鮮人は三牌を妓生として扱わなかったことが明らかになった。 すなわち大韓帝国期における妓生と三牌は法的・政策的・社会的属性と役割がそれぞれ異なる集団であり、三牌は妓生の範囲に含まれることなく朝鮮社会と朝鮮人の間で「妓生には一牌、二牌、三牌の3種類がある」という分類法が存在していなかったのである。 本研究は「大韓帝国期における妓生と三牌の概念的区分に関する研究―妓生と三牌の法的・政策的・社会的属性と概念的差異―」『文化と融合』(第43巻11号 2021年)に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「三牌」は1897年大韓帝国成立前後に登場し、1910年8月以降この用語は資料・記録上発見されていない。そのため当初の計画では資料・記録上で三牌が存在した「大韓帝国期」のみを研究対象期間として設定し研究する予定であった。しかし実際には三牌という用語が記録上なくなっただけで「三牌出身」たちは賞花室芸妓、賞花室妓女などの異称で呼ばれており、植民地期においても存在していた。1916年5月、朝鮮総督府警務総監部により「甲種妓生」すなわち公娼制度下における芸娼妓ではなく近代式妓生制度の芸人として昇格し、三牌出身を呼称する用語は消滅した。 そこで2021年度は研究対象期間を拡大させて追加研究を実施し、植民地期においての妓生と三牌出身の法的・社会的実体と概念の差も明らかにした。本研究では植民地期も2つの期間(第1期:1910年8月29日~1916年5月19日、第2期:1916年5月19日~1923年8月)に分類して考察したが、この研究により①第1期に存在した三牌出身は妓生ではなかった②第2期に存在した三牌出身が中心となった新彰妓生組合(京和券番)の妓生は朝鮮総督府により新たにつくられた妓生であるということが明らかになった。 この研究は「植民地時期における妓生と三牌出身の概念的区分に関する研究―妓生と三牌出身の法的・政策的・社会的属性と概念的差異―」『東アジア文化研究』(第87号 2021年)に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間中の2022年度の研究実施計画では、『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』の解題的研究を妓生に関する書類を中心に行うこととした。 『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』は既存研究で活用されてきたにも関わらず、誤認と学術的な誤読が少なくなく、研究上の未公開内容も多い。そこで2022年度はまず『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』に関する既存の3つの解題を分析、誤認した内容を正し、解題学的に補完すべき課題を抽出する。また『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』を活用した代表的な3つの研究を考察し、妓生関連書類を娼妓関連書類として誤読した点や芸人集団である妓生組合を売春婦集団である娼妓組合として誤認した点など、多様な学術的誤読を正す。そのうえでこれらをもとに、より客観的で実際的な『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』の解題論文を妓生関連書類を中心に執筆する。これは統監府による最初の近代式妓生組織である漢城妓生組合所設立の顛末を明らかにすることにつながる。 また『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』全ページの解読と分析を行い、妓生と娼妓は法律に基づき徹底して二分化された存在であったということを証明し、既存研究の謬見に対する反論の根拠を作るとともに2023年度研究課題の論理的根拠資料とする。そして『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』は崩し字で書かれている部分が多いため、専門業者や関連研究者の協力を得てより正確な解読を通して解題作業を行う予定である。 また、今年度は状況が許す限り韓国での調査を実施し、資料収集のほか関連施設等の視察や研究協力者及び妓生研究者から研究に対する助言を得る予定であるが、新型コロナウィルスの影響で渡韓が叶わない場合には、必要資料等は日本への郵送で対応、研究者からの助言はオンラインなどを利用して実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で当初予定していた韓国での調査が不可能になったため、旅費及び人件費・謝金の支出が発生しなかった。次年度、渡韓が可能になれば当初の予定通り韓国での資料調査、関連施設の視察、妓生研究者との意見交換などを実施する。そのために発生する旅費や人件費、現地での協力者に対する謝金などに経費を支出する予定である。
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