2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K12506
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Research Institution | Tokyo Seitoku University |
Principal Investigator |
水谷 清佳 東京成徳大学, 国際学部, 准教授 (50512117)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 妓生 / 『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』 / 大韓帝国 / 近代式妓生制度 / 解題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的に即して2022年度は『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』(以下、書類綴)の妓生に関する書類を中心に解題的研究を遂行した。研究において使用する既存の3つの書類綴の複製本(①1988年マイクロフィルム、②1995年陰影本、③1999年白黒スキャン)を調査すると、それぞれ資料枚数が違う点、文書の順序が前後・重複・混同・原本には存在しないマークが入っている点、解像度及び視認性が低い点などの問題点が明らかになった。そこで本代表者は、既存複製本より発見した問題点を整理したファイルを韓国の国家記録院に提出し、学術的な目的により書類綴原本をそのまま再複製する必要性を明示・要請した。審議の結果、原本の再複製が許可され4番目の複製本となる書類綴のカラースキャンファイルを入手するに至った。これにより既存の白黒の複製本には見られなかった書類綴上のメモ、印、修正線、修正文などの内容も明らかにすることができた。 以上の流れを経て2022年度は書類綴原本を新たに再複製した「④2022年国家記録院の新カラースキャンファイル」を活用し、書類綴を構成している全4種類の文書のうち2番目の文書群である<2>妓生団束令(近代式妓生制度)の制定準備から発令、施行、細部指針、申告書様式などの書類(1908年9月~10月、1909年3月)と4番目の文書群である<4>漢城妓生組合所妓生の日本巡回公演及び国内開城公演に関する書類(1910年5月)の分析・考察を通して妓生関連書類の内容を解題した。 書類綴は大韓帝国末期に統監府が当時、歌舞を専業としていた妓生と売淫を専業としていた娼妓を近代的な方式で管理するための政策を施し、事前調査の実施、関連法令の制定、具体的な実施方針の設定、制度実施に至るまで朝鮮半島での近代式妓生制度と公娼制度の顛末が記録された唯一の公的(法的、政策的)な記録物であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2022年度は『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』(以下、書類綴)の妓生関連書類である2番目及び4番目の文書群の解題を行うことを予定していた。しかし、これまでの書類綴の解題では「帝国日本の責任」を論じる方向に傾いていたり、詳細な資料分析がなされていなかったりしたため、その内容が曲解されたことから学術的な中立性を確保できていなかった。また、書類綴を活用した先行研究でも娼妓関連書類を妓生関連書類であると錯覚・誤読したことで事実と異なる内容が作り出され、それは現在まで具体的な検証なしにそのまま再生産されてきた。 そこでこのような書類綴に関する学術的な悪循環を防ぐため、本年度は研究範囲を拡大させて、既存の解題と書類綴を活用した先行研究の学術的誤謬を正す研究を追加して実施した。 この研究は「『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』を活用した先行研究検証及び誤謬訂正-ファンボミョン(2004)の『植民地権力による体の統制』を中心に」『アジア文化研究』(第59集 2022年)、「『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』を活用した先行研究検証及び誤謬訂正に関する研究-ソンバンソン(2003)の『漢城妓生組合所の芸術社会史的照明』を中心に」『歴史と融合』(第12集 2022年)に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
大韓帝国期と植民地期には帝国日本が朝鮮の妓生をどのような存在として認識しどのような態度と政策をとったのかを知ることのできる様々な歴史的転換点がある。それは1904年娼女の集娼、1906年娼女を対象にした性病検査、1907年娼女の売淫税、1908年娼妓団束令(公娼制度)、1910年娼妓団束令の改定、そして1916年公娼制度の全国統一法令の制定などであるが、朝鮮の妓生は帝国日本のこのような全ての政策から除外されていた。さらに帝国日本は妓生を朝鮮の女楽の伝統を継承した芸人として扱う「妓生取締規則」を別途制定し、大韓帝国期から植民地期に至るまで全ての日韓の公式行事と公私宴会、博覧会及び共進会、近代劇場での芸術公演など妓生が自由に歌舞活動を行えるよう多様な環境的・政策的支援を続けた。 そこで次年度は近代新聞、官報、各種法令及び細部規則などをもとに朝鮮の妓生に対する帝国日本の態度を明らかにすることで、帝国日本は朝鮮の妓生集団の近代化に肯定的な影響を及ぼしたことを証明する研究を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
研究を進めるにあたり主にその他項目(専門者による『妓生及娼妓ニ関スル書類綴』の解読など)の経費使用が中心となり、残金が生じることとなった。次年度に物品費として使用する予定である。
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