2021 Fiscal Year Research-status Report
スクロール表示による文章理解と画像記憶の低下の原因解明
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21K12602
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森田 ひろみ 筑波大学, 図書館情報メディア系, 准教授 (00359580)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スクロール / 画像記憶 / 読み / 再認 / 眼球運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
仕事でもプライベートでもモバイル端末を常に使用する現代の情報環境において,小さな画面内でスクロールしながら画像や文章を探索し認知することが不可欠になっている.しかし,スクロールして観察すると画像や文章内の位置の知覚が不安定になり,それが内容の理解や記憶の低下をもたらすのではないかと考えられる.この仮説を検証することが本研究の最終目的である. この目的の達成に向けて,初年度に当たる2021年度は,スクロールにより観察した画像内の物体の直後再認と遅延再認実験を行い,また物体位置の直後再生実験の結果をまとめた.その結果,1)スクロール表示による観察は,全体を一度に見る観察に比べて長時間を要し,同じ大きさの表示画面を用いた窓移動表示による観察の方が時間が短くて済むこと,2)自由な時間観察した場合,物体や位置の直後記憶は全体を一度に見た場合と変わらないが,1時間後の記憶保持はスクロール表示による観察の方が良いこと,などが明らかになった.この結果は,スクロール表示による画像観察は時間がかかるが,長期的な記憶の保持において有利な側面があることを示す点で,教育工学的な意義がある. 今後は,スクロール表示を用いた観察による物体位置の不安定性の部分を検証していく.また,文章のスクロール読みについても同様の傾向が見られるかを調べ必要がある.そのために,2022年度は表示条件間で観察時間を一定にして,位置関係の記憶に感度の高い実験を行う予定である.また,スクロールしながら文章を読んだ時の段落や文の位置の記憶を,静止したページをめくりながら読んだ場合と比較する実験を行っていく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の予定は,次の2個の研究の実施と1個の研究の準備であった. 研究1は,小さな画面を用いてスクロールして画像を観察後,画像内の物体の位置をどのくらい正確に覚えているかを調べる研究である.研究2は,小さな画面内で文章をスクロールしながら黙読後,ある文や段落がどこにあったのかといった文章内位置の記憶の正確さを調べる研究である.研究3は,2,3カ所の場所に順番に物体画像を短い時間ずつ次々に表示したとき,同じ位置に繰り返し表示された画像と異なる位置に繰り返し表示された画像の記憶の正確さを比較する研究である. 研究1は実施したが,研究2は準備中であり,研究3は実施していない.その代わり,次年度の計画であった研究4(スクロールしながら画像を観察後,画像内の物体自身の記憶の正確さを調べる研究)を先取りして行った. 以上の通り,今年度予定していた一部の実験が準備中または未着手であるが,次年度に予定していた研究を今年度に行ったことから,おおむね順調な進捗状況と言える.
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Strategy for Future Research Activity |
1)次年度はまず,上記研究1を進めて,スクロールしながら観察した物体の位置の知覚の不安定さを感度の良い測定法を考案して再検討する. 2)研究2を実施する.具体的には,文章をスクロールしながら黙読後,文章内の文や段落の位置の記憶の正確さを調べる実験を行う.これは,コロナ禍で対面実験ができない場合のことを考え,オンライン実験も視野に入れて実験を準備中である.具体的には,中程度の長さの文章をスクロールしながら黙読してもらった後,①文章内の文や段落を提示してその文章内の位置を答えてもらう,②複数の文や段落を提示して正しい順序に並べてもらうという実験を行う.ここでは,スクロールを行う画面の大きさも要因として実験する.また,オンライン実験を行う場合には,被験者が実験中に中断することが無いように比較的短い箇条書きの文書などを用いることとする.文章の段落の位置を答えることが被験者にとって難しいようであれば,マンガを題材として,あるコマの位置やコマの並べ替えなどを課題とすることも考える. 3)研究3を実施する.具体的には,複数ヵ所順次RSVP表示により物体画像を表示し,同じ位置に繰り返し表示された物体と異なる位置に繰り返し表示された物体の間で記憶の正確さを比較する. 4)研究5と6を実施する.具体的には,文章をスクロールしながら黙読後,内容の再認実験や理解度テストを行い,ページめくりによる黙読や印刷物の黙読と比較する.現在,用いる文章と理解度テストの内容を検討中である.
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Causes of Carryover |
適当な候補者が見つからなかったため,研究員を雇用しなかった.代わりに研究室の学生を研究協力者として実施した.この分は次年度の研究員雇用に充てる. また,眼球運動計測用にハイスペックノートPCの購入を予定していたが,既存のものを用いて実験を行うことができたため,次年度に購入を予定している.
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Research Products
(4 results)