2021 Fiscal Year Research-status Report
Neural mechanisms of "brain timer"
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21K12618
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
生塩 研一 近畿大学, 医学部, 講師 (30296751)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 時間知覚 / 前頭前野 / 運動前野 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちは1秒と2秒の時間の長さを区別できます。まるで、脳内にストップウォッチがあるかの如く。しかし、そのメカニズムはほとんど分かっていません。これまでの研究により、前頭前野、運動補足野、運動前野、大脳基底核、頭頂葉、小脳、海馬などの多くの脳領域が時間知覚において何らかの形で関与していることが分かっています。しかし、それらの各領域が時間情報処理で具体的にどのような役割を担っているのかは分かっていません。また、精神疾患によって時間感覚が歪むことも知られており、時間知覚を診断に役立てようとする試みもあります。本研究課題では、脳の前頭前野、運動前野、大脳基底核といった脳領域が時間情報処理で具体的にどのような役割を果たしているのか、視覚と聴覚の両方を時間呈示に使う時間弁別課題と、3つの時間長カテゴリを区別する時間弁別課題を実験動物に与え、単一ニューロンレベルでのニューロン活動の記録とデータ解析によって明らかにすることを目的としています。異種感覚刺激を用いた時間弁別課題では、サルに視覚刺激と聴覚刺激という異なる感覚種で時間長を呈示します。視覚刺激では時間的に変化しない色のついた図形(緑色の四角形)を、聴覚刺激ではスピーカからの2,000Hzの純音を用います。両方を同時に用いることはなく、いずれか一方を使って時間長を呈示します。サルには、2つ続けて呈示された時間長のうち、より長く呈示された時間長を選択させました。3つの時間長カテゴリを区別する時間弁別課題では、当初、時間長カテゴリを区別するだけの課題を検討していましたが、2021年度は3つの時間長カテゴリの視覚刺激を呈示したのち、ボタン押しによってそのカテゴリとは別カテゴリの時間長を生成させる課題にバージョンアップし、トレーニングとニューロン活動の計測実験を進めました。2021年度は学会発表を2件行いました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異種感覚刺激を用いた時間弁別課題を遂行中に前頭前野のニューロン活動計測実験を進めています。1つ目の時間呈示(C1)でも、2つ目の時間呈示(C2)でも、視覚刺激、もしくは、聴覚刺激だけに応答するニューロンのいずれも見つかりましたが、視覚刺激の方が有意に大きい応答を示しました。また、それらのニューロン応答は、持続的な発火ではなく、0.6ミリ秒間を中心とした短時間集中応答で、そのタイミングは視覚刺激の開始時刻から0.3から0.6ミリ秒あたりで多く見られました。C1後の遅延期間では、視覚刺激、聴覚刺激のそれぞれに対して、時間長に依存して応答の大きさを変える、つまり、時間の長さをコードしているようなニューロンがありました。一方、C2後の遅延期間では、C2の時間長に依存して応答の大きさを変えるニューロンはあまりなく、C2がC1より長かったか短かったかの結果をコードするニューロンが多く見つかりました。さらに、それらのニューロンでも、C2が視覚刺激のときだけ応答するもの、聴覚刺激のときだけ応答するものも少数ながらありました。3つの時間長カテゴリを区別する時間弁別課題では、認知させる視覚刺激の時間長が長いカテゴリなら短い時間をボタン押しで生成させ、認知させる時間長が短いなら長い時間長を生成させるという、時間の認知と生成が逆対応になる形で応答させ、ニューロン活動は運動前野から計測しています。視覚刺激呈示後の遅延期間で、時間長が短いときだけや、長いときだけに短時間集中応答するニューロンがありましたが、時間長が長いときだけに応答するニューロンの方が4倍近く見つかりました。また、視覚刺激呈示期間やその後の遅延期間から徐々に発火頻度が高くなる、砂時計で時間を計るようなニューロンも見つかりました。1頭のサルからのパイロットデータですが、第77回日本神経科学大会で発表しました。
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Strategy for Future Research Activity |
異種感覚刺激を用いた時間弁別課題では、引き続いて呈示する2つの時間長のそれぞれを視覚刺激と聴覚刺激のいずれかで示すので、それらの組み合わせは、視覚-視覚、視覚-聴覚、聴覚-視覚、聴覚-聴覚の4パターンとなります。行動データによると、その4つのパターンのうち、聴覚-聴覚だけ他のパターンに比べて正答率が低く、音の高さや強さの影響を検討したいと考えています。時間は感覚種に依存しない物理量ですので、この課題を通して脳内ストップウォッチの神経基盤について実験とデータ解析を進める予定です。3つの時間長カテゴリを区別する時間弁別課題では、認知させる時間長として0.8秒、1.6秒、3.2秒の3種類を用意し、それぞれ、3.2から4.8秒、1.6から3.2秒、0.8から1.6秒を許容範囲としています。この認知と生成を逆の対応にしたのは、長い時間長を認知させ、同じ長さを生成させると1つの試行にかかる時間が長くなり、サルの集中力が保てなくなることを危惧したためと、時間の認知と生成を切り離してそれぞれのプロセスのニューロン活動を計測するためです。また、この課題ではサルは課題試行の開始時から時間生成を終えるまでボタン押しを継続しており、認知と生成で逆の対応をさせたことにより視覚刺激で時間長を認知しなくても課題試行の開始時から一定の時間でボタン押しをやめることで正解できる可能性もあります。認知させる時間長が1.6秒のときは、生成させる時間長を少し短くしてそのような可能性を排除できるようには配慮していますが、データ解析で確かめながら改良する必要があります。それから、まだ1頭のサルからのデータではありますが、認知させる時間長が3.2秒では80%の正答率なのに、1.6秒では75%、0.8秒では70%と徐々に下がっており、少し難易度に差があるようなので、課題設定を検討しながら実験を進めたいと考えています。
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Causes of Carryover |
実験動物で処置をした箇所の消毒や感染防止のための抗生剤といった消耗品の購入を想定して24,520円を残していましたが、年度内の実験では新たに購入する必要がないようにすることができました。貴重な予算を無駄に拠出することにならないよう、少額ではありますが次年度使用額として残すこととしました。この次年度使用額は、次年度の実験において手術などの処置をした場合の消毒や抗生剤の購入に充てる予定です。
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