2023 Fiscal Year Research-status Report
圧力波を利用した刺激に対する非線形粘弾性応答に関する研究
Project/Area Number |
21K12627
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
橋本 時忠 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (90392860)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
住 隆博 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (30358668)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 圧力波 / 単一気泡 / 気泡振動 / 粘弾性 / 物性推定 / 逆問題解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
圧力波として刺激を生体組織に適切に与えれば治療法として利用できる一方で,損傷として現れる可能性があるため,圧力波刺激に対する細胞の応答を十分に理解する必要がある.圧力波のエネルギーや照射時間等により生体組織からの反応は大きく異なると推測されるがその力学的変化については未解明な点が多い.我々はこの現象が生体組織の機械的性質である粘弾性体が関係していると推測している.粘弾性体は粘性と弾性の性質を併せ持つ動的物性が問題となり,一般的に粘弾性体の動的物性測定はレオメーターを用いて行われるが,測定可能な周波数領域は,およそ10^3 1/s以下の低ひずみ速度領域に限定される.一方で衝撃波を伴う現象はおよそ10^3 1/sを大幅に超えた高ひずみ速度領域に位置するため,新たな高ひずみ速度領域における物性推定法として,粘弾性体内の単一気泡振動を利用した物性評価法を考案した.この物性評価法は粘弾性サンプル内に発生させた誘起キャビテーション気泡や微小気泡の気泡振動を高速撮影して気泡径の時系列データを実験的に取得後,粘弾性を考慮した単一気泡の気泡運動方程式の数値解を合わせ込むことで,粘弾性サンプルの動的物性の逆推定を行う手法である.現在10^3 ~10^5/s程度の非線形振動を有するひずみ速度領域における粘弾性特性の取得に成功している. 今年度は昨年度に引き続き,粘弾性物性推定法における数値予測の改善と広範囲の周波数領域におけるデータ取得を目的とした.数値予測については特に影響が大きいと思われる粘弾性構成則に注目して逆問題解析を実施した.さらにこれまで解析が困難であった気泡振動の非線形性が強く現れる気泡の最小領域におけるデータ精度の向上を目指した.次に,レオロジー分野の視点に基づき粘弾性サンプルに温度変化を与えて特性変化をもたらすことにより広範囲の周波数領域におけるデータ取得を目指した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度は高圧放電装置が整備される予定であったが、選定業者の経営破綻により納入不可となった上、代理業者が見つからなかった。さらに、代表者が体調不良により2023年1月から8月まで入院及び自宅での在宅勤務となった。以上から、本研究期間を1年延期することを決定した. 上記の理由により,今年度は粘弾性構成則に注目して,数値予測の精度向上を目指した.気泡振動が最小になる谷の部分では実験データ毎に得られる振動プロファイルが異なる上に,従来使用していた粘弾性モデルによる解析では応力緩和が強く現れ,実験データで得られるプロファイルを再現することが困難であった.そこで,撮影速度の大きい高速度カメラを用いて精密に時間を制御することで再現性の高い精緻なデータ取得に成功した.また,これらの実験データを数値的にフィットさせる際に使用するパラメータである複数の無次元数に対して適当な範囲を設けて,得られた解析解と実験データの最小二乗誤差の総和を評価することで実験データにフィットする最適解の抽出が可能となり、良好な数値予測が可能となった. 次に広範囲のひずみ速度領域におけるデータ取得を目指して,粘弾性サンプルに温度変化を加えた結果,粘弾性体のひずみ速度に変化をもたらすことが可能であり,それに対応する特性変化を推定することに成功した. 予定していた装置が納入されないことや代表者が体調不良になる等困難なことが多かったが,今年度は本研究で利用している物性評価法の精度改善がみられ,さらに広範囲のひずみ速度領域でのデータ取得の可能性が見られ当初の遅れを取り戻したので、やや遅れていると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では広範囲のひずみ速度領域における粘弾性特性の取得と複数の圧力波による刺激(衝撃波と膨張波)に対する粘弾性特性の効果について検討することが目的であり,そのために気泡振動を利用していることが本研究の特徴である. 今年度は粘弾性サンプルの温度依存性に注目して広いひずみ速度領域でのデータを目指したが,今後はこれに加えて気泡振動の形態が線形から非線形へと変化するひずみ速度領域について調査を進める.さらに,生体内部での発生は好ましくないと考えられる膨張波が粘弾性体に対してどのような力学的変化をもたらすのか,粘弾性の特性変化という面から調査する.
|
Causes of Carryover |
理由 高圧放電装置の取得が不可能となったので、予定していた実験と同様の結果が期待できる装置に使用するため.
使用計画 所有しているレーザーの改良費用と複数の圧力データを取得するためのオシロスコープの購入に使用する.
|