2021 Fiscal Year Research-status Report
Noninvasive measurements of piezoelectric signals in cancellous bone generated by ultrasound irradiation
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21K12638
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Research Institution | Akashi National College of Technology |
Principal Investigator |
細川 篤 明石工業高等専門学校, 電気情報工学科, 准教授 (00321456)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 海綿骨 / 圧電信号 / 超音波 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度の研究では、主として、超音波照射によって海綿骨で生じる圧電信号の数値シミュレーションを行った。数値シミュレーションは、弾性FDTD(時間領域差分)法(※弾性体中の超音波信号の数値シミュレーションで用いられる方法)に圧電方程式を組み込んだ圧電FDTD法を適用して、試作済みのプログラムをベースにして行った。数値シミュレーションの結果を実験結果と比較することによって、海綿骨における圧電信号の発生原理に関して検討を行った。 まず、海綿骨中の間隙流体が空気の場合と水の場合の圧電信号の数値シミュレーションを行った。以前の研究において圧電信号の発生には低速波の伝搬が関連していると推測しており、低速波は海綿骨の間隙(流体)部分を主として伝搬することから、海綿骨で生じる圧電信号の発生は骨梁表面と間隙(流体)の間の境界で主として生じると仮定した。この仮定を考慮した計算アルゴリズムを圧電FDTDプログラムに組み込んで、数値シミュレーションを行った。その結果、間隙流体が水の場合の圧電信号の振幅が空気の場合よりも大きくなった。この数値シミュレーション結果は、実験結果と一致した。 次に、立方体形状の海綿骨モデルを用いて、三方向から超音波を照射した場合の圧電信号の数値シミュレーションを行った。その結果、照射超音波の波数が多い(継続時間が長い)と圧電信号振幅と構造パラメータおよび超音波信号振幅の間の相関は非常に低いが、波数を少なく(継続時間を長く)すると高くなることが示された。これは、海綿骨内部における超音波の反射・散乱の影響(だけ)ではなく、骨梁によって局所的に発生した圧電信号が重畳していることが原因であると推測された。 以上のように、圧電信号が骨梁表面と間隙(流体)の間の境界で主として生じると考えられること、圧電信号は局所的な骨梁によって発生してそれらが重畳して観測されることが導かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和3年度の研究実施計画では、①海綿骨の間隙を満たす流体(骨髄)が圧電特性に及ぼす影響の解明、②海綿骨を覆う皮質骨が圧電特性に及ぼす影響の解明、③海綿骨で発生する圧電信号のin situ測定方法の開発、の三つの研究を行う予定であった。①については、十分な成果を出すことができたと考えているが、②については実験および数値シミュレーションの準備までしか実行できず、③についてはほとんど着手できなかった。 研究遅れの主たる理由は、数値シミュレーションに計画外の日にちを要したためである。数値シミュレーションで用いられているFDTD法では空間を有限の格子に分割して解析を行うが、①の研究途上において、その分割幅の大きさによって数値シミュレーション結果が大きく変化する可能性があることが判明した。これは、①の研究において圧電信号が骨梁表面と間隙(流体)の間の境界で主として生じると考えられたが、骨梁や間隙の寸法と比較して格子の分割幅が十分に小さくないと、骨梁表面と間隙(流体)の間の境界が面ではなく立体とみなされることが原因であった。しかし、分割幅を1/2にすると計算に必要なメモリはおよそ8(2の3乗)倍、計算に要する時間はおよそ16(2の4乗)倍になる。計算環境の整備(大容量メモリ搭載の計算サーバの準備および効率的にメモリを使用するためのプログラムの修正)に手間取り、数値シミュレーション自体も1回(1つの圧電信号の計算)で数10日を要することになった。また、数値シミュレーションの妥当性を検証するために、数値シミュレーション結果と比較するための実験結果が必要になり、この実験の準備および実行に計画外の日にちを要した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、令和3年度に十分に実施できなかった、海綿骨を覆う皮質骨が圧電特性に及ぼす影響の解明に取り組む。この解明は、これまでに確立した方法をベースとして、実験と数値シミュレーションの両方で行う。 実験については、海綿骨と皮質骨が混在する箇所から切り出した骨試料を用いること以外は、海綿骨だけの場合と同様に行う。すなわち、骨試料を厚さ10 mm前後の直方体形状に切り出して、この骨試料を圧電素子とみなした超音波センサ「圧電セル」を作製する。この圧電セルに超音波を照射したときに発生する圧電信号から、骨試料の圧電特性の測定を行う。まず、海綿骨と皮質骨が同程度の割合で混在する骨試料を用いて、(海綿骨が皮質骨で覆われていることを考慮して)皮質骨側から超音波を照射する。その後、骨試料の厚さ、海綿骨と皮質骨の割合、超音波照射方向を変化させた場合の、圧電特性の変化について調べる予定である。なお、データ取得と並行して、実験(方法)自体についての見直し・改善も行う。 数値シミュレーションについては、計算環境の十分な整備後に実行する。現時点では、ある程度小さな分割幅で計算することが可能であるが、数値シミュレーション結果の妥当性を確実に検証するためには分割幅をより小さくする(分割数を多くする)必要がある。また、実験内容の変更に合わせて、数値シミュレーションモデル(計算領域)の拡大を視野に入れる必要がある。そこで、本研究費を用いて、計算能力向上のための計算サーバの整備を行う。さらに、効率的に(現実的に)多数の数値シミュレーションを実行するためには、計算時間の短縮は必須と言える。そこで、計算プログラムの最適化を行って、計算時間の短縮と必要メモリの減少を図る。その後は、骨モデルの部分を変更するだけとなる。骨モデルは実験試料のX線μCTイメージから容易に作成可能であり、研究を円滑に進めることができる見込みである。
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Causes of Carryover |
令和3年度末に高分解能オシロスコープを購入したが、納品が4月になったため、次年度予算からの使用となった。残金については、計算サーバの計算能力向上のための整備に用いる予定である。
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