Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, 脳の自発律動, 視聴覚性定常反応, また, 呼吸や心拍/脈拍等の生理律動に関連する生体磁気信号をMEG装置により一元的に検出し, 成分間の周波数比を評価するための手法を開発している. 初年度(2021年度)は, 本手法で指標とする磁界成分の基礎周波数となる心拍/脈拍に関連する心磁界雑音成分について, 生理学的機序と時空間特性を調べた.まず, MEGセンサを被験者の頭部, 頸部, 胸部に近付けた時のMEG信号を計測した. また, 雑音事象の時間基準として, 心電図を同時計測した. 次に, MRI装置により頭部, 頸部, 胸部の構造画像と血管画像(MRA)を撮像し, 各部位の皮膚表面, 脳, 心臓, および, 動静脈の実形状モデルを作成した. 各モデルで定義した信号空間に対して均一の導電率を設定し, 心磁界雑音の電流密度分布を推定した. その結果, 心磁界雑音のピーク潜時は心電図のR波に同期しており, 最大電流密度は心室中隔および左右心室の心筋付近に推定された. 頭蓋内の残差成分は, 椎骨動脈と中大脳動脈に局在した. これらの結果から, 心磁界雑音には心筋細胞の膜電位変化に伴う心室収縮に由来する磁界成分と, 脳血管の脈動に関連する磁界成分が重畳している事が示唆された. 一方で, DC成分の最大電流密度は上矢状洞に推定された. これは, 動脈血の反磁性に対し, 静脈血の常磁性を反映している可能性を示す. 本研究の結果は, 心拍/脈拍成分の正確な抽出を可能にすると共に, 循環器系の非侵襲・非接触な定量的評価法の開発など, MEG活用分野の新規開拓にもつながることが期待される. 以上が本年度の成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度(2021年度)は心拍/脈拍に関連する心磁界雑音成分について評価法を検討した. 本手法の特徴は, MEGとMRAの組み合わせによる信号空間の厳密な定義と, 律動成分の全ピーク潜時の検出に基づく数百~数千回の加算平均による信号対雑音比の向上であり, これはMEG信号の電流密度分布推定において, 計測値と理論(近似)値の誤差の低減に有効であることを確認した. 本手法を呼吸等その他の生体磁気雑音成分や脳律動成分の解析に適応する手順も整った. また, もう一方の指標である誘発反応の計測に関しても, 視覚刺激用LEDライトと聴覚刺激用トランスデュ-サから発生する機器雑音の除去/低減法の検討として, MEGセンサからの許容距離の測定や, パーマロイとアルミによるシールド箱の試作品の検証を進めている. 以上の状況から順調と判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(2022年度)は, 心磁界雑音成分の信号源として推定された各血管部位における電流密度値と瞬時血流量や血流速等の相関の検証を進めることで, 心磁界雑音成分の生理的機序を評価する. これは, MEG信号処理手法の開発に留まらず, 循環器系の非侵襲・非接触な定量的評価法の開発など, MEG活用分野の新規開拓につながる可能性があるため, 重点的に行う. その後, 他の指標である生体磁気雑音成分および脳磁界信号成分に関する検討を進め, 各成分の周波数特性を同定し, 生体律動の調和的階層構造を明らかにすることを目指す.
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