2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K12673
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Research Institution | St. Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
水上 喜久 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (30756698)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / リーリン / 認知症モデルマウス / 細胞移植療法 / メトホルミン / ニューロン新生 / ミクログリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、認知症で喪失した神経経路の再構築を可能とする細胞移植療法を世界で初めて開発することである。本研究の要となるのは、移植部位における移植細胞の ①分化、②機能、③再生の3つである。今年度は、まず①の分化について検討をおこなった。
・コリン作動性ニューロンへ分化誘導条件の検討 移植療法では、細胞が移植部位に生着し、機能する細胞に分化する必要があるため、移植細胞の分化の「方向付け」が要となる。これまでに研究代表者らは、コリン作動性ニューロンがニコチンによって刺激されることに着目し、アルツハイマー病(AD)モデルマウスに各種濃度のニコチンを連日投与した結果、モリス水迷路の成績が非投与群と比較して高いことを示唆する結果が得られた。そこで研究代表者らは、ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞の移植とニコチンの投与を組み合わせることで認知機能の改善に相乗効果が期待できると考え、移植後にニコチンを連日投与したところ、移植のみを行ったADモデルマウスに比べて、モリス水迷路の成績がより向上することが示唆された。
次に、神経幹細胞へのニコチンの作用を明らかにするために、ヒトiPS細胞をin vitroで分化誘導する際に、ニコチンの濃度、タイミングを各種検討をおこなった。その結果、ニコチンの濃度が増すにつれてアセチルコリン受容体を発現する分化細胞が多くなることがわかった。一方で、通常は分化誘導後に成熟神経細胞マーカーであるTuj-1を高発現し、神経細胞様に突起を伸ばす細胞が多くみられるのに対し、ニコチンを加えて分化させた細胞ではTuj-1の発現が低く、突起を長く伸ばす形態の細胞は少ないことがわかった。以上の結果から、ニコチンは未熟な神経幹細胞の神経分化を阻害している可能性が示唆された。今後、投与するタイミングは神経分化が進んでから投与することを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞とニコチン投与によって、認知機能の改善に相乗効果がみられることを示唆する結果を得られた。さらに、in vitroの系において、ヒトiPS細胞由来の細胞を分化誘導する際に、ニコチンの濃度によってアセチルコリン受容体の発現が亢進することを見出すことに成功した。
一方、並行して取り組んでいるReelinのクローニングについては、その分子量の大きさからもやや難航しており、作成の途中である。Reelinのドメイン構造は、Reelin repeatと呼ばれる8つのドメインがN末端とC末端配列配列に挟まれた構造をしている。Reelinは酵素によって切断される部位が3つあり、その切断の組み合わせによって、いくつかのアイソフォームに分かれる。これらのドメインの機能についてはいまだ不明な点が多いため、まずは作成の容易な短いアイソフォームの作成から着手する。作成後、HEK293T細胞にウイルスベクターを用いて過剰発現させたのちにADモデルマウス脳内へ移植し、認知機能の改善がみられるか検証する。 また、ヒト由来の細胞株であるHEK293Tはマウス脳内で免疫拒絶されるため、Reelinのアイソフォームを発現してもその機能を正確に評価できない可能性がある。そこで、ADモデルマウスと同じ遺伝的背景をもつ野生型マウス(B6)からiPS細胞を樹立し、神経幹細胞に分化誘導させたのちにウイルスベクターでReelin断片を過剰発現させた細胞の移植を検討中である。現在、B6マウスのiPS細胞の樹立し、細胞株の選別評価中である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の分化、機能、再生の3つを主なテーマとしながら、さらに実験を成功させるための工夫として、マウスの食餌についても検討する。 近年、カロリー制限によって脳内でオートファジーが促進され、認知機能が向上するという報告や、肥満に伴う認知機能の低下がみられるなど、脳におよぼす食事の影響が報告されている。本研究で用いるADモデルマウスは、認知症の病態を示すまでに長い時間を要し(6~10ヶ月)、また個体によってその時期や程度は大きく異なる。認知機能の評価はモリス水迷路とよばれる方法でおこなうが、この実験は1週間ほどかかるため、評価することに多大な時間と労力を要するため、逐一、認知機能を評価することも非効率的である。 そこで、ADモデルマウスの餌を若年時(3ヶ月)から高脂肪食を与えて、より早期に認知症の病態を示すかを、通常食のADモデルマウスと比較しながら、1ヶ月ごとにモリス水迷路によって評価する。同時に、カロリー制限群(通常食1~2個/日)によって認知症の発症や進行を遅らせられるか検討する。これら食餌や量の違いによって、脳内でどのような違いが見られるか評価するために、免疫蛍光組織染色によって、アミロイドベータ(またはアミロイド前駆体)、新生された幼若なニューロン(anti-DCX)、Reelinシグナル関連分子(anti-Reelin, anti-ApoER2, anti-Dab1, anti-pDab1, anti-pAkt)、炎症生ミクログリア(anti-Iba1)、オートファジー(anti-LC-3)に着目し、解析する。
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Causes of Carryover |
認知症モデルマウスの認知症の表現系の発症は、個体によってばらつきがあり、最低でも6ヶ月齢ほどまで飼育する必要がある。また、老化に伴う変化をみるために、マウスを1年齢から2年齢にまで飼育したあとで解析を計画している。 しかし、老齢マウスの作成過程において、大学施設内におけるマウスの飼育・繁殖可能な数に制限がある中、飼育中のケージ内で他マウスによる噛みつきなどによって傷を負ってしまったり、自然死してしまう場合など、実験に使用するための十分な個体数を確保することに長い時間がかかった。 今後、より早く認知症の症状を示すための工夫として、高脂肪食を与えることで、認知症の症状が早められないか検討する。
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