2021 Fiscal Year Research-status Report
Mechanical properties of elastin hydrogels and its application to biomaterials for spinal ligament repair
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21K12675
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
山本 衛 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (00309270)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / エラスチン / 生体軟組織 / 腱・靭帯 / 組織再生用材料 / 力学的特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
エラスチンは,コラーゲンとともに皮膚,血管,靭帯などの生体軟組織を構成する線維状タンパク質である.エラスチンは高い不溶性のために抽出が難しく,精製が容易ではないこと,また高純度のエラスチンを大量に得ることができないために,エラスチンに対する応用研究だけでなく,基礎科学的研究もあまり進展していないのが現状である.そこで本研究では,生体高分子材料であるエラスチンのバイオマテリアル化技術の確立を最終目標とし,押込み試験によってエラスチン材料の弾性率を計測した.この際には,エラスチン材料の弾性率に及ぼす架橋剤濃度の影響について検討した.本実験では,魚類動脈球より精製したエラスチンを使用した.さらに,精製されたエラスチンの中から,分子量が比較的小さいβ―エラスチンを分離して実験に用いた.次に,β―エラスチン含有材料を作製するため,DMSO(ジメチルスルホキシド)に濃度100 mg/mlでエラスチンを溶解した.また,架橋剤には比較的高い細胞親和性を有するHMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)を用いた.エラスチン溶液に対して架橋剤濃度が20%と25%になるように添加してエラスチン材料を作製した.作製したエラスチン材料の力学的特性を押込み試験によって評価した.小型材料試験機を用いて,押込み速度1 mm/minでステンレス鋼製球状圧子(半径2.25 mm)を材料表面から0.5 mmの位置まで押し込んだ.その後,この押込み変位を300秒間維持し,その間の荷重緩和を計測した.得られた負荷時の押込み荷重-変位関係から,ヘルツの接触理論から導かれる式を用いてエラスチン材料の弾性率を算出した.その結果,架橋剤濃度によって変化するエラスチン材料の弾性率を押込み試験によって定量的に評価することが可能であり,高濃度の架橋剤を用いた条件で作製したエラスチン材料の弾性率が高値であることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
腱や靭帯,皮膚,血管などの生体軟組織は,主としてコラーゲンとエラスチンの両マトリックス成分の相互作用が発揮されるネットワーク構造によって,適度な強度と柔軟性を有することが可能である.損傷した組織に対する再生医療では,細胞だけでなく細胞の足場となるマトリックスの性状が極めて重要となる.組織再生用材料として,コラーゲンについては基礎と応用の両面で盛んに研究が行われている.一方,エラスチンに関する研究は素材の精製が困難であることに起因して非常に少ないのが現状である.本研究では,生体軟組織の損傷治癒を促進させる手法の開発を最終目標として,架橋剤濃度が異なる条件で作製したエラスチン含有材料の弾性率を押込み試験によって計測し,架橋剤がエラスチン材料の力学的特性に及ぼす影響について検討した.架橋剤濃度20%,30%で作製したエラスチン材料の弾性率と荷重緩和率を調べた結果,架橋剤濃度20%で弾性率は約107 kPa,荷重緩和率は約49%であり,これらに対して架橋剤濃度30%で弾性率は約1625 kPa,荷重緩和率は約21%であった.このように,架橋剤濃度が上がると,弾性率は高くなり荷重緩和率は低くなるという結果が得られている.エラスチンは,生体軟組織に伸展性や柔軟性を付与する役割を担っているが,バイオメカニクス分野での詳細な検討はあまり実施されていない.エラスチンゲルを用いた組織の再生治療を実用化していくには,力学的配慮が不可欠であり,エラスチンゲルの強度や弾性率が組織再生に及ぼす影響を定量的に評価することで,医療への応用展開も可能になる.従って,水分含有量の高い項靭帯や黄色靭帯と類似の性状を有するエラスチンハイドロゲルを対象として,生体力学的観点からアプローチしていくことで得られたデータは,生体医工学分野への波及効果をもたらすものであり,研究は順調に進行しているものと判断される.
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Strategy for Future Research Activity |
架橋剤濃度を15%,20%,30%として作製したエラスチン材料の弾性率と荷重緩和率を定量化した.その結果,架橋剤濃度15%で作製した材料の弾性率が約60 kPa,荷重緩和率が約38%であった.さらに,架橋剤濃度20%と30%の条件では材料の弾性率と荷重緩和率が,それぞれ約107 kPaと約49%,約1625 kPaと約21%であった.このように架橋剤濃度が上がると弾性率は高値となる傾向があり,特に架橋剤濃度30%の弾性率は,濃度15%や20%の作製条件時の材料と比較して顕著に増加する値を示したことから,架橋剤濃度と材料弾性率の間の関係は非線形的であることが示唆された.先行研究のデータでは,脊椎靭帯の弾性率は約56 MPaであることが示されている.本実験では,架橋剤濃度30%で作製した材料の弾性率が約1.6 MPaであり,靭帯組織よりも低い値であった.今後,架橋剤濃度を幅広く設定した条件での作製を行うことで,生体軟組織の弾性率により近い特性を有するエラスチン材料が作製できるかを検討する必要があると考えられる.加えて,生体軟組織にはエラスチンだけなくコラーゲンも存在することで,生命活動を行うために不可欠である力学的な機能を発揮することが可能となっている.低い剛性や高い伸展性というエラスチン線維の特徴と比較して,コラーゲン線維は比較的高い強度と剛性を有している.コラーゲンとエラスチンを種々の比率で複合化することにより,生体軟組織に類似した至適な力学的特性を有する組織再生用バイオマテリアルを作製できるものと推察される.コラーゲンだけでなく,他の生体タンパク質成分であるヒアルロン酸やプロテオグリカンとの複合化や一体化させることで,より高機能な材料を作製できる可能性もある.このような複合材料の作製に向けて,新たな実験手法を確立していくための準備を現在進めているところである.
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Causes of Carryover |
本年度の研究費残額は数千円程度(4,620円)であり,順調に遂行された研究にほぼ使用することができたと判断される.来年度も継続して行うことになっている研究課題であり,今後実施される実験に本年度の残額を有効に使用することができる見通しである.
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