2022 Fiscal Year Research-status Report
次世代型長寿命人工股関節の開発のためのコールドフロー損傷抑制に関する研究
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21K12689
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
趙 昌熙 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (70364148)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 人工股関節 / 超高分子量ポリエチレン / コールドフロー |
Outline of Annual Research Achievements |
人工股関節の臨床寿命を短縮する主要原因の一つであるコールドフロー(cold flow)の発生の原因や人工股関節用超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)ライナーの摩耗・破損などの損傷に及ぼす影響を明らかにし、コールドフロー発生による損傷を最小限に抑制する設計改善策の提案のために、2022年度中には、前年度中に研究協力機関の研究協力者らによって集積された摘出人工股関節の寸法や幾何学的形状の実測値データに基づいて、より厳密に人工股関節の形状を再現した3次元解析モデルの作成およびこれらを用いたコールドフロー発生の有限要素法シミュレーションを行った。当該年度中には、これらの有限要素モデルと先行研究において構築されたUHMWPEの材料モデルを用いて、主に人工股関節のアセタブラーカップに存在するねじ穴の直径や配置、ねじ穴とねじのヘッドの間の段差、UHMWPEライナーの厚さ、アセタブラーカップの骨盤への設置角度などがUHMWPEライナーの力学的状態やコールドフロー発生に及ぼす影響について有限要素解析を行い、解析結果の分析および検討を行った。解析の結果、ねじ穴の直径の増加とともに、ねじ穴付近のライナーの接触応力が大きく増加する傾向が見られた。さらに、ねじ穴とねじのヘッドの間の段差の増加とともに、ねじ穴付近のライナーの接触応力が増加する傾向が確認された。また、アセタブラーカップにおけるねじ穴の配置間隔の増加とともに、ねじ穴付近のライナーの接触応力が減少する傾向が見られた。さらに、アセタブラーカップの骨盤への設置角度の増加とともに、ねじ穴付近のライナーの接触応力が増加する傾向が見られた。UHMWPEライナーの厚さの変化による影響の検討では、UHMWPEライナーの厚さの増加とともにねじ穴付近のライナーの接触応力が緩やかに減少していく傾向が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の当初の研究計画において、当該年度(2022年度)中に実施予定であった前年度(2021年度)の予備解析の結果分析に基づく人工股関節の有限要素モデルの修正を行い、数値計算の収束性と効率を高めることができた。また、前年度中に研究協力機関の研究協力者らによって摘出・集積された摘出人工股関節の各コンポーネントの寸法や幾何学的形状の実測値データに基づいて、より厳密に人工股関節の形状を再現した数例の3次元解析モデルの作成およびこれらを用いたコールドフロー発生の有限要素法シミュレーションを行うことができた。研究費の不足で当初の研究計画において当該年度中に実施予定であった材料実験用生体環境チャンバーの設計・製作や、UHMWPEの引張試験片の製作、これらを用いた材料実験データに基づく最新のUHMWPEの材料モデルの構築を行うことはできなかったが、先行研究におけるUHMWPEの材料実験データを代用することで有限要素法シミュレーションのためのUHMWPEの材料モデルの構築と解析条件の設定を行うことができた。当該年度中には前年度よりも厳密に人工股関節の形状を再現した3次元有限要素モデルを用いたコールドフロー発生の本解析の実行および解析結果の定量的・定性的分析・評価を行うことができた。さらに、当該年度中に行ったコールドフロー発生の有限要素法シミュレーションの結果や得られた研究成果を取りまとめ、国内外の関連学会において発表および研究論文として学術雑誌に投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後本研究課題では、三次元CADソフトウェアを用いてより厳密に人工股関節の形状と運動を再現した3次元有限要素モデルの更なる開発および改良を進める予定である。また、改良した解析モデルを用いたコールドフロー発生の有限要素法シミュレーションを行い、人工股関節用UHMWPEライナーにおけるコールドフロー発生の原因や影響因子、UHMWPEライナーの力学的状態および損傷に及ぼす影響を明らかにし、コールドフロー発生による損傷を最小限に抑制するための設計改善策を提案する予定である。さらに、数値解析の結果を踏まえて、三次元CADソフトウェアや有限要素法解析ソフトウェアを用いて、コールドフロー損傷抑制のための人工股関節の各コンポーネントの最適形状設計を進める予定である。当該年度の研究結果は、数値計算の収束性と効率を高めるために人工股関節の形状と運動を単純化・理想化したモデルで一回の単純接触解析を行った段階での結果であり、本研究課題において摘出・集積された摘出人工股関節数十例の中で数例に限定される。したがって、人工股関節におけるコールドフロー損傷抑制のための設計改善策を定量化・一般化するために、今後、できるだけ多くの3次元有限要素モデルの作成およびこれを用いた解析を進める予定である。また、当該年度の解析結果はアセタブラーカップのねじ穴のエッジが面取りなどの機械的加工がされていない場合に限定される結果であり、このようなねじ穴の形状がより応力集中を増大させると考えられる。ねじ穴のエッジの面取りなどの機械的加工により応力集中を低減させる可能性があるため、この問題についても今後力学的解析および検討を進める予定である。さらに、人工股関節用UHMWPEライナーにおけるコールドフロー(cold flow)とインピンジメント(impingement)の同時発生がライナーの摩耗や破損などの損傷に及ぼす影響についても更なる力学的解析および検討を進める予定である。
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