2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of Fluidic Biomaterials for Immnunomodulation
Project/Area Number |
21K12696
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
宇都 甲一郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 独立研究者 (30597034)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | マクロファージ / 炎症 / 流動性マトリクス / メカノバイオロジー / バイオマテリアル / 粘弾性 / マテリオバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、研究代表者が独自に開発した「流動性バイオマテリアル」がマクロファージの炎症抑制を誘導することに着目し、材料-細胞間で起こる生物学的反応およびその作用機序を解明することを目的とする。高分子合成技術を駆使し、物理化学的特性を設計した流動性バイオマテリアルの材料物性-細胞機能の連関性を理解することで、炎症抑制を誘導する新奇なバイオマテリアルの設計指針の構築し応用へとつなげる。 本年度は、当初の計画①「物質状態や流動性の異なるマトリクスの作製とマクロファージ応答のスクリーニング」の検討に着手した。まず、室温や細胞培養環境において流動性を示すε-カプロラクトンとD,L-ラクチドからなる共重合体(P(CL-co-DLLA))を合成し、得られたP(CL-co-DLLA)の重合度がマクロファージの炎症応答に及ぼす影響について調査した。P(CL-co-DLLA)からなる流動性マトリクス上で培養したマクロファージに対してLPS刺激を与えた場合、従来用いられている固体基材(ガラス)と比較し、炎症応答が優位に低下することに加え、この炎症応答レベルがマトリクスの流動性により変動することを見出した。実際に、P(CL-co-DLLA)の重合度と炎症応答のレベルには相関性が確認され、重合度の増加に伴い炎症応答の亢進が確認された。動的粘弾性評価により、P(CL-co-DLLA)の重合度が、マトリクス粘弾性を顕著に変化させることが認められたため、マクロファージの炎症応答がマトリクスの粘弾性により制御されていることが示唆された。また、マクロファージの接着形態、一酸化窒素やサイトカイン/ケモカインの産生にも影響を及ぼすことが確認され、マトリクスの流動性を介したマクロファージの炎症応答制御や機能変調に関する知見が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、上記研究項目①「物質状態や流動性の異なるマトリクスの作製とマクロファージ応答のスクリーニング」について検討を進めた。異なる重合度を有するP(CL-co-DLLA)を合成し、スピンコーティングにより細胞培養用のマトリクスを作製した後、動的粘弾性評価による物性解析とLPS刺激に対するマクロファージの炎症応答の相関を系統的に解析した。流動性マトリクスに接着したマクロファージの接着形態について免疫染色により評価した結果、LPS刺激の有無に関わらず、コントロールの固体基材(ガラス)と比較して伸展が抑制されていた。また、ポリマー重合度の増加に伴うマトリクス流動性の低下は、わずかであるが細胞伸展を促進することから、マトリクスの粘弾性とマクロファージの接着形態の相関関係を見出した。流動性マトリクス上のマクロファージに対してLPS刺激を与えると、炎症反応調節因子であるNF-kBの活性化が流動性に依存して変動することも確認され、マトリクス流動性が細胞形態のみならず、炎症応答にまで影響を及ぼすことを明らかとした。LPS刺激により誘導されるM1マクロファージは、一酸化窒素や炎症誘発性サイトカインの産生を亢進することが知られているため、マクロファージの機能について評価を行った。その結果、流動性マトリクス上においてマクロファージの一酸化窒素産生や炎症誘発性サイトカインの産生が抑制されることを見出し、マトリクスの流動性に依存した産生パターンを示す、数種のサイトカインやケモカインを同定することにも成功した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度までに、マトリクスの流動性がマクロファージの炎症反応を制御する物性因子になり得ること、炎症応答やそれに伴う機能とマクロファージの接着形態に相関関係があるとの手がかりを得ることができた。当初計画におけるマトリクスの流動性を介した炎症応答の制御が可能であるいう、コンセプトの実証と材料設計指針の基礎は得られたが、粘性、損失正接(tanδ)、拡散速度など、マクロファージの炎症抑制や機能変調を支配する流動性因子の特定と作用機序の解明が今後の中心的課題となる。今後の研究推進方策としては、まず動的粘弾性や光褪色後蛍光回復法などを利用し、流動性の指標となるパラメータを算出し、得られた物性指標とマクロファージの炎症応答、一酸化窒素やサイトカイン/ケモカインの産生との相関関係をより詳細に検討する。マクロファージの炎症抑制や機能変調を支配する流動性因子を特定できれば、高分子合成や材料作製へとフィードバックし、より高次な流動性バイオマテリアル開発のための設計指針の構築につながる。さらに、メカノ関連シグナルや分子の阻害実験を行い、メカノシグナル伝達機構の関与など作用機序の解明に関する検討にも着手する。
|
Causes of Carryover |
流動性マトリクスを作製するための高分子の合成が予定より順調に進んだため、化学合成・材料作製用試薬の購入費を抑えることができたのに加え、当初購入を予定していた、サイトカン産生を評価する測定キット(サイトカインアレイ)の購入費が少なく済んだため。来年度は流動性マトリクスを介した炎症応答の作用機序の解明を計画しており、分子生物学的評価に薬剤や試薬の購入費に充てる。
|