2021 Fiscal Year Research-status Report
無線メッシュネットワークによる服薬モニタリングシステムの開発
Project/Area Number |
21K12799
|
Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
星 憲司 東北医科薬科大学, 薬学部, 講師 (20405913)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 服薬アドヒアランス / LPWA / LoRa / IoT |
Outline of Annual Research Achievements |
薬物治療を成功させるためには、服薬アドヒアランスの改善、すなわち患者が処方を理解して正しく服用することが重要である。そこで研究代表者らは、医薬品のパッケージの開封を電気的に検出し、小型の無線モジュールによってリアルタイムで医療機関に通知する、服薬モニタリングシステムを開発した。BLE(Bluetooth Low Energy) を利用した従来のシステムでは、無線通信が可能な距離が10~100m 程度と短いため、患者の自宅に通信を中継するための通信回線のインフラが必要になる。そこで本研究では、より長距離の通信が可能な無線通信技術 LPWA(Low Power, Wide Area) を利用してこの問題の解決を目指す。 2021年度は、医薬品パッケージに搭載する無線モジュールを LPWA の機能を持つものに変更して、それを制御する研究を実施した。本研究では、送受信するデータのサイズが小さく、また数分間から数時間に一回程度の間欠的な動作でも、十分にリアルタイム性の高い服薬モニタリングが実現できる。一方、無線機能を搭載する医薬品のパッケージは、患者が自由に携帯できるサイズと質量にする必要があるため、電源の軽量化の観点から、できるだけ消費電力の小さい方式が望ましい。 そこで、この目的に適した方式として、国内で利用できる LPWA の規格のうち、免許が不要で独自の通信プロトコルでの運用が可能な LoRa(Long Range) に着目して、その通信能力を実験により検証し、本研究で利用可能であることを確認した。 仙台市内での市街地での通信実験により、同規格は通信距離の観点では本研究の目的に適しており、患者の自宅と医療機関の通信が実現できることが確認できた。一方、障害物に影響されやすいことが判明したため、当初の研究計画の通り、通信の中継機能の実装とさらなる省電力化の実現を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
服薬モニタリングシステムの通信方式の改良を目的として、従来の BLE(Bluetooth Low Energy) を利用した通信モジュールから LoRa(Long Range) を利用した通信モジュールである SX1261 に変更し、通信能力を検証する実験を行うことができた。 今後実証実験と実用化を行うことを想定し、将来このシステムが利用される、患者の自宅と医療機関の環境に近い仙台市内の市街地で環境を構築して、通信可能な距離と精度を測定した。今回使用した通信モジュールでは、通信速度と通信距離を、パラメータの設定によって、両者のトレードオフとしてある程度変更できる。本研究の利用目的では送信するデータ量を小さくできることから、通信速度を規格上の最低に設定した。その結果、通信距離は従来の方式と比較して想定通りに大幅に長くなり、患者の自宅と医療機関の通信を実現する見通しができた。一方、本方式の無線通信は、鉄筋の建物や大型の構造物だけでなく、一般の家庭にも存在する、ガラスや扉などの小規模な障害物にも影響を受けて通信が途絶する可能性があることが明らかになった。 このような障害物の影響は当初から想定しており、今後の研究で対策を進める。現時点では、(1)時間の経過によって、送信者と受信者の位置関係や障害物の位置、電波の到達状況が変わることを想定し、通信できない場合は通信内容を保持して適切な時間の経過後に再送信する方法 (2)通信を中継可能な位置にあるモジュールが情報を一旦受信して蓄積し、再送信する方法 (3)移動体に通信を中継するモジュールを搭載して、定期的に巡回させる方法、等を検討している。これらの方式の中で、必要なリアルタイム性と消費電力の観点から、本研究に適した方法を採用して解決を図る。 これらは研究計画に沿っており、研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的である、インフラが極力不要な服薬モニタリングシステムを開発するため、研究計画に沿って、これまでの実験で判明した問題の解決を進める。前述の(1)を実現するため、医薬品のパッケージに搭載した LoRa(Long Range) モジュールのファームウェアを改良して、適切な時間の経過後に再送信する機能を持たせる。(2)を実現するため、通信の中継に必要なルーティングプロトコルを確定して実装する。これらの方法での通信が難しいことが判明した場合は、(3)の中継モジュールによる通信手法を検討する。 いずれの方式でも、実用的なシステムを実現するためには、患者が携帯する医薬品のパッケージの小型化が必要で、そのためには低い消費電力で動作する電子回路を開発する必要がある。また、軽量で安全な電源方式を開発する必要がある。 低消費電力化のために、電子回路の間欠動作を実施する。従来のBLE(Bluetooth Low Energy) を利用したシステムでは、スリープ機能を利用して10秒間程度の間隔で回路を動作させていたが、この間欠動作を拡張する。ただし通信を行うシステムでは、送信側と受信側の双方が同時に起動していないと通信が成立しないため、正確なタイミングを保つ仕組みが必要である。 また本研究では、患者の携帯する機器の安全性を重視し、電源として市販の小型の一次電池を利用している。これまでの研究では、電池の種類と電源回路、間欠動作のパターンによって、動作時間が大きく影響を受けることが判明しているため、本研究で利用可能な多種の一時電池と、電源回路、間欠動作のパターンの総当たりを行い、適切な電源の方式を発見する。この電源方式は同種の幅広い回路に応用できるため、今後の研究の進展に重要であると考えている。
|
Causes of Carryover |
医薬品パッケージに搭載する通信モジュールのファームウェアの開発のために、想定より高速な計算機が必要なことが分かった。そこで初年度に購入予定のノート PC は次年度以降に購入することとし、代わりにデスクトップ型の PC を購入してファームウェアの開発を行った。 次年度は屋外でのフィールドワークで、携帯可能なノートパソコンが必要になる可能性があるため、今後の研究の進展に応じて、同 PC、通信機能と消費電力の計測機器、多数の電源回路を切り替えて測定する装置の開発に必要な機器を購入する予定である。
|