2022 Fiscal Year Research-status Report
人権の基礎としての人間性に関する研究:福利・地位・人権保障主体
Project/Area Number |
21K12821
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木山 幸輔 筑波大学, 人文社会系, 助教 (10837107)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 人権 / 福利 / 尊厳 / 人間性 / 地位 / 国際法 / ビジネスと人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「人権が人間性に依拠することはどのように理解されるべきか」の問いに対し、回答を与えること、そしてその回答をもとに適切な国際人権政策を描き出すことにあった。より具体的には、本研究は、まず(1)福利説の最善理論の同定、(2)地位説の最善理論の同定を行い、(3)両者を比較検討することを企図した。(4)その上で、得られた知見を現実施策、特に国際人権政策に適用することを企図した。 こうした作業を通じ、「どうして人間が人権を持つのか」という根源的問題に回答を与え、現実的な公共政策への示唆にまで含意を有する人権理論を構築することが、本研究の目指すところであった。 2022年度は、まず(2)に関して、着実な進展を見た。第1に、人権主体の地位と尊厳概念とを結びつける理論を検討することができた。第1に、P・ギラバートの議論を主に念頭におきながら、人権主体の地位を尊厳に依拠させうる諸形態について法哲学・社会哲学国際学会連合世界会議で報告した。これは、チェコ共和国でのオンラインワークショップへの招待ののち、英語論文として公刊確定となった(約7500 words)。第2に、(2)と関連し、(3)(4)についても、成果を上げた。特に、尊厳概念を福利(利益)に依拠させることを批判するA・ブキャナンの立論に対して福利への依拠が適切であることを示しつつ、その「ビジネスと人権」や国際法的権利、国際秩序構想への含意を敷衍することができた。この成果は、日本法哲学会等での報告を経て、すでに公刊がなされた(約60000字)。加えて、特に社会権に関する人権保障のうえで、どのように貧困の表象を行うことが適切か考察を進めることもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本務校(筑波大学)での教務や委員負担が大きくとも、着実に日英各1報の査読付論文の公刊確定を含む成果を示すことができたことは、大きな成果だと思っている。特に、規範理論的考察を中心としつつも、実定法研究者や国際開発学の研究者・実務家と交流することができ、今後もなお一層の、実務家や、哲学倫理学を専門としない研究者との交流も可能となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、引き続き(3)福利説の最善理論と地位説の最善理論を比較する研究、および(4)国際人権政策の評価に従事する。特に、いわゆるリンケージ論証における諸権利の正当化の検討や、国際法学における理論蓄積のなお一層の参照によって、この作業は進展するだろう。なお、2023年度には、研究代表者が主催する英語ワークショップ、日本語での実定法学に関する学会(依頼)での報告がすでに確定している。 2024年度は、主に(4)の研究、すなわち(1)(2)(3)の成果を踏まえ、国際人権政策を評価する研究に従事する。特に、福利説と地位説の両者の大きな違いの一つとして、人権達成条件の構想や人権保障主体の構想について、極めて異なる含意を示されることに注目する。そこで、特に人権保障主体が論争の大きな焦点となっている「ビジネスと人権」をめぐる施策群を評価する。 2025年度は、(1)-(4)を体系化し、単行本の形を念頭に一貫・統合する研究に従事する。
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Causes of Carryover |
2023年度に在外研究を目指しているため、使用額を調整したことによる。当該額は、在外研究における研究に用いる予定である。特に、日本における参加学会が首都圏外主催の場合以外オンライン開催となったため、旅費を次年度に回すことができた。
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