2022 Fiscal Year Research-status Report
Rethinking the Concept of Responsibility: From the Kyoto School's Theory of Time
Project/Area Number |
21K12823
|
Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
犬塚 悠 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80803626)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 責任 / 京都学派 / 和辻哲郎 / 西田幾多郎 / 三木清 / 技術 / 自然 / AI |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は責任概念とその適用範囲を再考することを目的とし、西田幾多郎ら京都学派の哲学、特に時間論をその手がかりとするものである。2022年度は、2つの口頭発表と1本の共著論文、また1冊の図書の分担執筆を行った。 1つ目の口頭発表は、東洋的自然観をめぐる研究会におけるものである。和辻哲郎の著作、特に『風土』『倫理学』『桂離宮』に見られる人間・自然についての理解を分析した。中でも、作者の没後も続く芸術的形成力の考えが『桂離宮』に見られることに注目し、それと和辻の風土論との連続性を明らかにした。 2つ目の口頭発表は、大阪大学で開催された京都学派・ポスト京都学派の科学哲学・技術哲学をめぐる研究会におけるものである。西田幾多郎の哲学において責任概念がいかに捉えられているのかを初期から晩年までの著作を対象に調査し、時期ごとの特徴を明らかにした。現在、その研究成果をまとめた論文を作成中である。 共著論文は、ヘルスケアAI開発における設計者の責任を扱ったものである。これは、責任概念とその適用範囲の再考を目的とする本研究にとって、その現代的意義を検討するための試みとして位置付けられる。本論文では健康情報学を専門とする共著者と共に、オランダの技術哲学者ピーター=ポール・フェルベークが説く技術論・責任論を参照しつつ、今日実装化されつつあるヘルスケアAIが人々にもたらす影響の指摘、その技術の民主化のためのモデルの提案を行った。 図書は教養の歴史・実態をめぐるものであり、分担執筆した章では日本における教養史、特に大正教養主義を扱った。大正教養主義は、本研究が手がかりとする和辻哲郎や三木清が主要な論者・批判者となっており、担当章では彼らの責任論の背景としての教養論、また関連して同時代の土木技術者の人格論を取り上げた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画の変更はあったが、当初からの本研究の対象である西田幾多郎らにおける責任論の調査は進んでおり、本研究の現代的意義・歴史的背景を示す新たな対象として位置付けられるヘルスケアAIや大正教養主義をめぐる研究成果も出たため。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は次のとおりである。 1.1.西田幾多郎の責任論:前年度の調査によって明らかとなった西田幾多郎の責任論について、論文を執筆する。1.2.京都学派の責任論:西田と影響関係にあった三木清・和辻哲郎における責任論についても、西田と比較しながら文献調査を進める。 2.1.京都学派の芸術・創造論における事後性:芸術家は単に完成図を物に反映するのではなく、試行錯誤を通して作品さらに芸術家自身が形成されると指摘する西田の議論を中心として、「自覚」の事後性を明らかにする。2.2.京都学派教育学の芸術・創造論における事後性:西田哲学の影響を受けた木村素衛の教育論を手がかりに、創造行為の後に自分が何者かを知る人間の「自己形成」の事後性を考察する。 3.1.京都学派における個と社会:西田らは1930年代以降、個と社会・人類との二重ないし三重構造に着目した。個人的・社会的な人間の時間の重層性、責任について自覚の事後性との関係を含め明らかにする。3.2.京都学派における罪悪論と責任:人間の有限性の認識が根底に見られる西田らの「根源悪」の議論と、創造行為における事後性、個と社会の時間の重層性の議論を踏まえ、責任の在処を考察する。 4.1.ヘルスケアAIなど、具体的事例をめぐる責任論:現代の技術論・責任論を参照しつつ、上記の研究から得られる知見の応用可能性を探る。 1.1と1.2は2023年度中に、2.1と2.2は2024年度に、3.1と3.3は2025年度に行う。これらと並行して、4.1の具体的事例の研究を行う。一研究課題に時間を要した場合は、適宜計画を見直しながら研究を進める。
|
Causes of Carryover |
2021年度における産前産後の休暇と育児休業の取得により繰越金があり、またPCの購入時期を次年度に計画変更したため。次年度分として請求した助成金と合わせた約160万円は、図書・PCなどの物品費として約80万、旅費として約50万、英文校正費などのその他経費として約30万円使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)