2021 Fiscal Year Research-status Report
An inferentialist approach to ELSI research
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21K12824
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
朱 喜哲 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (50844908)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 言語哲学 / プラグマティズム / 倫理的・法的・社会的課題(ELSI) / 推論主義 / society5.0 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、二〇世紀後半における「プラグマティズム言語哲学」の中心的人物であるリチャード・ローティおよびその影響下で「推論主義」を展開するロバート・ブランダムらの文献的研究を念頭に、その社会実装に関わる課題を取り扱ってきた。それに際して、理論的研究とその社会実装に関わる応用的研究の両輪を推進してきた。両者に通じるのは、「理由による正当化」をコミュニケーションの中心に位置づける推論主義的な言語哲学アプローチという方法論を、現実に適用し、理論に適宜修正を加えるという営みである。 まず、理論的側面においては、近年急速に進んでいるアメリカ哲学史の見直しにも棹差しつつ、一九世紀末から二〇世紀にかけてのプラグマティズムの潮流の位置づけの見直しに取り組んだ。ひとつには、従来ではいわゆる論理実証主義などを擁した分析哲学と敵対してきたプラグマティズムという旧来の描像が否定されつつある動向に関連して、分析哲学とプラグマティズムを統合的になった領域の再定義を進めている。また、他方でアメリカにおけるドイツ観念論からの連続性を再評価する動向もある。この二点にまたがって、プラグマティズム言語哲学を再評価する研究を共同で推進し、関連書の批判的検討などを実施した。 ついで、社会実装の側面においては、各種の「理由」に関わる意識データではなく、位置情報など行動データを用いたデータ・デジタルビジネスに関して、2022年4月施行の個人情報改正やCOVID-19対応も念頭に注目が高まっている「通知と同意」の問題を中心に、言語哲学アプローチからの貢献を行った。これは現在、人文社会科学分野の役割として注目が高まっている「ELSI(倫理的・法的・社会的課題)」領域の設定にも関わっており、分野を超えての共創研究を推進している。また、ヘイトスピーチや陰謀論などのテーマへの応用研究についても公刊論文を出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
COVID-19の影響で引き続き対面での学会参加や研究会実施が困難ではあるが、リモートでの実施体制も拡充し、おおむね当初の想定どおりに進展している。 所属する大阪大学ELSIセンター側にも本領域への産業界からのニーズは多く舞い込み、具体的な事例に即しての研究が可能な環境も整備されており、次年度以降に公表できる成果も複数発生しているため、このような進捗状況と評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
理論面においては、プラグマティズム言語哲学の潮流を整理し、この流れにおいて欠かせない役割を果たしたリチャード・ローティの業績を再評価し、ロバート・ブランダムらの今日的な研究動向を哲学史において位置づけることをめざした単著の準備をしている。 応用面においては、ELSI領域での学際研究・産学共創研究での業績を公刊するとともに、ヘイトスピーチや陰謀論をはじめとした今日的な課題をともなう言説的事象について、理論に裏打ちされた課題の明示化に取り組んでおり、こちらについても書籍の形で公刊することをめざしている。
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Causes of Carryover |
引き続きCOVID-19影響から学会・研究会がリモート開催となり、想定していた旅費や人件費が発生しなかったため。次年度以降に現地開催が行われた際には当該の費用や、追加で必要となる物品(書籍)購入に充てるなどして使用する計画である。
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