2021 Fiscal Year Research-status Report
フィヒテの実践哲学における「人間の尊厳」概念の体系的解釈モデルの構築
Project/Area Number |
21K12836
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
櫻井 真文 同志社大学, 国際連携推進機構, 特別研究員 (20844096)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | フィヒテ / 尊厳 / 知性 / 実践 / カント / 選択意志 / 行為執行 / 積極的自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、イェーナ期フィヒテによる「尊厳」に基づく道徳的な行為様式と、批判期カントの自由論について、解明を行った。具体的な研究の進め方としては、フィヒテが1794年に記した『人間の尊厳について』と1800年に記した『人間の使命』、カントが1787/88年に記した『純粋理性批判』「B版」と『実践理性批判』を分析するという手法が採用された。前者の著作に関しては、8月に「フィヒテの『人間の尊厳について』(1794年)における能動的な尊厳論 ――近年のカント尊厳論論争へのポストカント的アプローチ――」という表題の研究発表を行い、フィヒテ尊厳論が人間の知性と実践の双方に基礎をもつこと、その能動的な尊厳論が近年のカント尊厳論論争を調停する視座を含むことを解明した。カントの著作に関しては、10月に「批判期カントにおける選択意志の二重構造」という表題の研究発表を行い、人間の選択意志は経験的にして超越論的であるという二重構造をもつこと、その行為の最終的な規定根拠は各人に備わる道徳法則の下での自由な「決意」である、という解釈が提示された。 本研究実績の哲学史的意義は、批判期カント哲学で主題として取り上げられた「道徳法則」や「自律」等の超越論的な重要概念と、フィヒテ哲学が取り扱う「人間の尊厳」や「使命」等の人間学的な重要概念との接続可能性を、両哲学者の著作の丹念な読解を通じて究明した点に認められる。とりわけ、「尊厳」に基づく道徳的な行為様式には、各人の自由な熟慮的決意が不可欠である、というカント・フィヒテ実践哲学の基本綱領を明示した点に、本研究の重要性は存しているだろう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の個別課題として掲げた「尊厳に基づく道徳的な行為様式の解明」に関しては、当該テキストの分析が滞りなく進展しており、研究発表時の質疑応答においても「フィヒテの尊厳概念に関しては後期フィヒテとの異同にも注意を向けてはどうか」という今後の研究に関する有意義な助言も受けているため、順調な進捗状況であると言える。また10月以降は同志社大学からの派遣研究員(EUキャンパスフェロー)として、テュービンゲン大学に拠点を移しており、受け入れ研究先のBrachtendorf教授のゼミや研究室で、ドイツ古典哲学全般における「尊厳」概念の生成史について研究を進めている。なかでも受け入れ先は、カトリック神学部における哲学科ということもあり、尊厳概念のキリスト教的背景についても自身の知見を広めることができた。ただし当初予定していた、国際フィヒテ協会大会での発表は、コロナ禍の影響を受ける形で次年度へと延期され、その他参加を予定していた国際学会に関しても相次いで中止が発表された。ただしオンライン会議機能を活かして、海外にいながらも関西哲学会でカント哲学に関する発表をしたり、毎月開催されているフィヒテ協会主催の「フィヒテ読書会」に参加することができたのは、大きな収穫であった。以上の通り、文献研究は順調に進んでおり、国内外の研究者との意見交換も活発に行われていることから、本研究課題はおおむね順調に進展していると言えるであろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、交付申請書記載の当初の計画に従い、フィヒテの「尊厳」概念の現代的意義の解明に着手する。具体的には、フィヒテが、互いを「尊厳」ある他者と認め合う共同体を形成するためには、まず第一に各人の内省的態度を促進させる「道徳教育」の役割が必要不可欠であると捉えている点に着目し、教育における「道徳的理念」の役割を検討する。主要テキストとしては、ドイツ国民としての自立性の再興を主唱した『ドイツ国民に告ぐ』(1808年)と、昨今注目されつつある、フィヒテの最初期の講義ノートである『Pezordi博士の命題に従った独断的神学』(1789年)を取り扱い、その人間理解を特徴づける人間学的側面と形而上学的側面の区別を明確にする。 申請者は2023年度も同志社大学フェローとしてテュービンゲン大学神学部において研究活動に従事することになる。そのため当初予定していた「日本カント協会」と「関西倫理学会」での研究発表は、発表条件次第で困難になる恐れもあるが、その際にはテュービンゲン大学のBrachtendorf教授と相談したうえで、EU圏の学会での研究発表に切り替え、ドイツ語で研究発表と論文投稿を行うことにする。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、ドイツで在外研究を行っている影響で、証憑書類の受け渡し等、物品購入手続きがスムースに進まなかったからである。次年度の使用計画としては、主に図書の購入に充てる予定である。
|