2021 Fiscal Year Research-status Report
漢文資料を通じて見る『般若灯論』の成立と伝承-漢訳のテキスト校訂と再評価の試み-
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21K12839
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
田村 昌己 東京学芸大学, 教育学部, 日本学術振興会特別研究員PD (60867555)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | バーヴィヴェーカ / 般若灯論 / プラバーカラミトラ / 漢訳 / 日本古写経 / アヴァローキタヴラタ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に沿って、以下の諸点にわたって研究を進めた。(1)本研究のキックオフとして、中観派ワークショップ2021にて本研究の概要(課題・目的・計画・展望等)について報告し、中観派研究者や日本古写経研究者等から専門的なアドバイスや情報提供を得た。これにより本研究の実施計画をさらに精緻なものにすることができた。(2)同じく中観派ワークショップ2021にて、『般若灯論』第22章におけるミーマーンサー学派批判(漢訳とチベット語訳)を、研究代表者の試訳をもとに参加者一同で読解した。ミーマーンサー研究者から有益なコメントを得るなど、試訳に多くの改良を加えることができた。(3)さらに(2)の成果にもとづき、『般若灯論』におけるミーマーンサー学派批判の特色を解明し、“Reading Dharmapala and Bhaviveka” Workshopにて発表した。(4)般若灯論研究会を隔週から月一回のペースで主催し、本邦の『般若灯論』研究者(早島慧・西山亮・安井光洋・林玄海・小坂有弘等諸氏)とともに、『般若灯論』第22章第10偈に対するアヴァローキタヴラタ注の読解を進めた。それにより、漢訳の翻訳上の問題点やアヴァローキタヴラタの思想について新たな知見を得た。(5)『般若灯論』第22章第10偈の異教徒批判においてパラレルな議論が見られる『中観心論』第10章を読解し、「仏伝と一切智者」を巡る議論の全体の概要を提示した上で、特に第12-14偈に関して詳細な分析を試み、その思想的源泉を明らかにした。この成果は日本印度学仏教学会第72回学術大会で発表し、論文が『印度学仏教学研究』第70巻第2号に掲載された。(6)バーヴィヴェーカの中観思想の中核が説かれる『中観心論』・『思択炎』第3章の読解に着手し、そのうちの第1-5偈の校訂テキストと翻訳研究が『インド学チベット学研究』第25号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大の影響が続いたために、日本古写経(アクセス可能な四写本のうち未入手の三写本)の収集が未だ実現できておらず、漢訳のテキスト校訂は入手済みの一写本とその他の刊本大蔵経などを用いた暫定的な形での作業遂行となっている。その他の作業(翻訳上の特徴の分析など)を先行させることにより対応しているが、全体として進捗はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
日本古写経所蔵研究機関が外部からのアクセスを再開させ次第、速やかに写本の収集を試みる。そして、収集した写本に基づき、作業の遅れている漢訳テキスト校訂に力点を置いて研究を進める。一方、写本の収集が可能になるまでは、これまでと同様、その他の作業(翻訳上の特徴の分析など)を先行させて実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響が続いたことにより、本年度予定していた学会参加や実地調査のための旅費の支出を全く行わなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は、元来の使用計画にある諸項目に加え、延期した実地調査の旅費の支出を行う。
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