2021 Fiscal Year Research-status Report
〈説得の政治哲学〉としての道学ー宋代政治社会における輿論形成と哲学の関わりー
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21K12840
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福谷 彬 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (40826004)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 宋代 / 朱子学 / 陸九淵 / 陸象山 / 輿論 / 孝宗 / 朱熹 |
Outline of Annual Research Achievements |
南宋の道学諸派は、朝廷における士大夫輿論を形成すべく多方面での言論活動を行い、反道学と対立しつつ、道学内部でも衝突した。特に朱熹と陸九淵の対立は顕著であった。当該年度は、陸九淵の対面での上奏をめぐって、陸九淵の皇帝に対する説得方法と彼の心学思想との関わりについて分析した。その結果、以下のことがわかった。まず、第一に、陸九淵の皇帝に対する進言の内容はおおよそ同時期の朱熹の進言の内容と重なっていたことである。それは①近習の専横と政治の堕落の指摘。②君主に対して正しく諫言を行う士大夫こそ重用すべきこと。③苛斂誅求を抑え、民力を蓄え、長期計画で国土恢復を目指すべきこと。以上の三点である。一方で、両者の皇帝に対する説得の姿勢には大きな違いがあることがわかった。朱熹の皇帝に対する説得は、陸九淵と比較すれば、批判の内容を相手に強く直接的に訴え、原因・責任を皇帝に求め、根本的な改心を求める点に特徴があった。また、朱熹は、当時の一般的な経書解釈とは異なる自己の学問体系に即した説得を試みた。これに対して、陸九淵の説得姿勢は、朱熹と比べる婉曲的で、陸九淵自身の学問体系というよりは説得対象である孝宗が慣れ親しみ孝宗にとって身近な故事や典拠を多用し、また孝宗が経験した事柄に即して政治の変革を訴えたことに特徴がである。また、自身の学問体系に基づく朱熹の説得方法は、朱熹の経書解釈を学んだわけではない孝宗がその内容を正確に理解できたとは思えない。陸九淵は、朱熹を典型とする道学者の、こうしたある意味では独善的と言わざるを得ない説得の姿勢が、必ずしも思考の枠組みを共有しているわけではない道学者以外の多くの人々の反感を招きやすいことをよくよく承知しており、それとは異なる説得方法を目指したと考えられる。以上の研究成果を「陸九淵の皇帝説得術」と題してまとめ、宋代史研究会研究報告集に掲載を見込んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
陸九淵の皇帝に対する説得姿勢に、朱熹とは異なる明確な特徴がわかり、また心学思想との関わりがわかってきた。 当初の予想以上の研究成果を得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、陸九淵の皇帝に対する説得方法を考察した。 今後は、陸九淵だけでなく、朱熹たち同時代の主要な道学者を考察対象としつつ、また、皇帝だけではなく、同時代の士大夫や門人、講友、論敵との交流についても視野を広げ考察する必要がある。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス流行の影響で、当初予定していた出張を諦めることを余儀なくされ、大幅に研究計画を変更することとなったため。
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