2021 Fiscal Year Research-status Report
ペルソナの観点からの三位一体論の再考と思想史の構築:十二世紀から十三世紀を中心に
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21K12851
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
平野 和歌子 龍谷大学, 文学部, 講師 (60793106)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 三位一体 / ペルソナ / ボナヴェントゥラ / キリスト教神学 / 西洋中世哲学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、当初の計画通り、ボナヴェントゥラ(c.1221-1274)の『命題集註解』の第一巻に基づき、ペルソナ同士の関係に焦点を当てながら三位一体の基盤をなす構造を取り出すことができた。本研究には申請の段階から、次の二つの理由で十三世紀のボナヴェントゥラを初手の切り口とすれば、より手堅い成果が得られるだろうとの見通しがあった。第一に、ボナヴェントゥラが一なる起源(origo)からの発出を軸に論を組み立てるところに、ペルソナ同士の動的な関係が認められることである。第二に、本研究は十二世紀も射程に入っているが、ボナヴェントゥラは十二世紀のギルベルトゥス・ポレタヌスらの主張とその評価も把握したうえで、ペルソナと固有性に関して論考しており、併せて先行研究の動向を見た上でも、研究の導入としては十三世紀から着手する方が適切だと考えられるためである。このような見通しから、初年度はボナヴェントゥラの『命題集註解』のテキスト分析を進め、当初の予測以上にその三位一体論は緻密であることが明らかになった。 ボナヴェントゥラの三位一体論の中でも、最初の発出に相当する、御父からの御子の誕生に関して(a)起源の観点だけでなく、従来軽視される傾向にあった(b)ペルソナ(persona)と固有性(proprietas)の観点をあわせた両方向から検討した。この論点を簡潔に表現してボナヴェントゥラは「生むゆえに、御父である」と言うが、これはトマス・アクィナスや研究者らから批判を受けてきた見解である。しかし本研究の検討によれば、ボナヴェントゥラは多角的かつ独自の理論に基づき、矛盾のない仕方でこの見解を採っている。本年度の研究では、その多角的な論考を可能な限り詳細に追うことで、ペルソナと固有性が起源からの発出を通して、他者である存在(主体)として生じることを契機に成立していく過程を詳らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に即して研究を進められた。それによる成果は、起源からの発出ないし御父からの御子誕生という、ボナヴェントゥラの三位一体論の基盤にあたる部分であり、次年度以降に本研究を継続していく上でも、不可欠な基礎になると考えられる。研究発表の数が少なかったことは深く反省すべきだが、緻密なテキスト分析によって今後の研究基盤を手堅いものにできたと考えている。感染症への対応のため大学業務にも通常以上の時間を割かねばならない状況の上、テキストの読解自体に時間を要するのだが、未発表の論点に関しても現時点でテキスト分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の計画の通り、令和4年度はボナヴェントゥラ『命題集註解』の精読と分析を継続し、さらに聖霊論やキリスト論へと考察を広げる。聖霊の発出については検討が不十分であるため、初年度の成果を土台としながら、まずは聖霊論を埋めることが不可欠である。また初年度には、三位一体の内的な議論に関して、先行研究が手薄であった部分を考慮する必要性(再帰的言明に関しての神の実体とペルソナの違いなど)を指摘したが、その関連部分を展開しなければならないとも考えている。国内学会の発表には旅費以外の懸念はないが、国際学会については当初参加を予定していた会は既に引き続き中止を決定しており、現時点では留保せざるを得ない。
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Causes of Carryover |
大きな要因は、申請時に発表を予定していた国際学会が感染症の影響で中止となり、国内学会もオンライン開催されたため、旅費の支出がなかったことによる。その代わりに必要な書籍での支出も可能性としてはあったが、世情の見通しが不透明だったゆえ、その代替使用にも慎重になった。令和4年度も通常の仕方での学会開催は難しいことが予測されるが、他方で研究の進展に応じて、関連資料や文献を収集する必要も生じている。それゆえ繰り越し分に関しては、書籍など最も有益な方向で活用する。
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