2021 Fiscal Year Research-status Report
天皇制と「死」をめぐるポリティクスとしての統帥権独立論に関する研究
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21K12860
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
山口 一樹 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (70876101)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 統帥権 / 日本陸軍 / 天皇制 / 戦場体験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の実績の概要は、以下の通りである。 本年度は皇道派将官である秦真次の著作を調査し、2021年度中に収集し得た秦真次のテキストを使用して、「太陽道」・「マコトの道」などの概念を生み出した秦の思想分析を行った。これを通じて、秦のファナティックともいえる思想がむしろ戦場における「死」の問題に対して、倫理的に応えようとしたことを検討し、投稿のための準備を行った。また並行して秦真次に関する未発見資料を収集し得たので、広く公開するための準備作業も行った。 また本年度は、まず「一九二〇年代後半における政党政治と陸軍―政党への系列化をめぐって―」(『ヒストリア』大阪歴史学会、287号、2021年8月)が掲載された。同論考では、上原派将官の政党への系列化を明らかにする過程で、それまでの反主流派であった上原派将官が陸軍部外に出たことで、昭和期の陸軍革新層への転換が促され、皇道派成立の前提が形成されたことと、大元帥としての天皇の権力への接近が行われたことの二点を明らかにした。次に、敗戦による軍隊機構・統帥権の解体ならびに象徴天皇制への移行によって、天皇制と「戦死」が切り離された戦後において、従軍した兵士はいかに自己の戦場体験と向き合ったのかという課題意識に関する試論的論文として「戦場体験が問いかける「生存」とナラティブ―やなせたかしと水木しげるの比較を通じて―」(『立命館平和研究』23号、2022年3月)が掲載されるなどの成果をあげた。 それ以外には、天皇と軍隊の関係を特旨との関係から検討した「武官充当職と現役特旨に関する試論―明治二三~三三年の軍部大臣武官制を中心に―」を近代日本思想史研究会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度ということで、研究計画を実施するにあたって、研究のベースとなる先行研究の整理と批判的検証、史料の調査収集といった基礎作業を集中的に行った。そのため、2021年度中に収集し得た秦真次のテキストを使用して、「太陽道」・「マコトの道」などの概念を生み出した秦の思想分析を行い、戦場における「死」の問題に対していかに応えようとしたのかを検討し、投稿のための準備を行った。また並行して秦真次に関する未発見資料を収集し得たので、広く公開するための準備作業も行うことができた。また敗戦による軍隊機構・統帥権の解体ならびに象徴天皇制への移行によって、天皇制と「戦死」が切り離された戦後において、従軍した兵士は自己の戦場体験と向き合ったのかという論点に関する試論的論文を発表できており、戦後を見据えた論点についても検討ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は皇道派将官である秦真次の著作を調査し、「太陽道」・「マコトの道」などの概念を生み出した秦の思想分析を行い、秦の思想がいかに戦場における「死」の問題に応えようとしたのかを検討し、投稿のための準備を行った。またこれと並行して秦に関する未発見資料を広く公開するための準備作業も行うことができた。そのため、2022年度はこれらの作業を発表することを第一に行う。そして、秦真次の思想分析を踏まえて皇道派やその支持層であった青年将校運動への影響関係の検討を行う。以上の作業を2022年度は行い、本研究を進展させていく予定である。
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Research Products
(3 results)