2022 Fiscal Year Research-status Report
天皇制と「死」をめぐるポリティクスとしての統帥権独立論に関する研究
Project/Area Number |
21K12860
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
山口 一樹 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (70876101)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 日本陸軍 / 統帥権 / 皇道派 / 天皇制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の実績の概要は、以下の通りである。 本年度は1930年代の陸軍派閥対立の軸となる派閥の一方である皇道派に属した秦真次のテキストを使用して、「太陽道」・「皇道」などの概念を生み出した秦の思想分析を行い、これを通じて秦のファナティックともいえる思想がむしろ戦場における「死」の問題に対して、倫理的に応えようとしたことを検討した。その成果として、まず2022年8月7日開催の「第42回平和のための京都の戦争展」ミニシンポジウムにて「戦間期日本陸軍における「戦死」―皇道派将官・秦真次の「太陽道」「皇道」概念から―」を報告した。それとともに、これまで注目されてこなかった秦の著作である『太陽と国体』の稿本にあたる史料を翻刻・紹介し、『立命館史学』(42号、立命館史学会、 2023年2月)に「史料紹介 大陽主義と国体(上)」として掲載された。そしてこれらの成果を基に「戦間期日本陸軍における「死生観」:皇道派将官・秦真次からの検討」として『日本思想史研究会会報』(39号、日本思想史研究会、2023年3月)に投稿し、掲載された。 それ以外の成果として、秦が属した皇道派台頭を促した背景にあったのが、宇垣一成を中心とした陸軍主流派による政党政治への妥協や接近であった。こうした1920年代後半における宇垣の政治動向を検討した「1920年代後半における宇垣一成擁立運動の諸相 : 三月事件前史」を『立命館大学人文科学研究所紀要』(133号、立命館大学人文科学研究所、2022年12月)に投稿し、掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第二年度ということで、前年度の調査を踏まえ、秦真次の思想をめぐって、「太陽道」・「皇道」などの概念を生み出した秦の思想分析を行い、戦場における「死」の問題に対していかに応えようとしたのかを検討し、その成果は「第42回平和のための京都の戦争展」ミニシンポジウムでの報告や秦のこれまで注目されてこなかった『太陽と国体』の稿本である「大陽主義と国体」の史料紹介、そして『日本思想史研究会会報』に掲載された「戦間期日本陸軍における「死生観」:皇道派将官・秦真次からの検討」となり、順調に成果を上げることが出来ている。また上記の成果を挙げつつ、並行して皇道派や青年将校運動への影響関係についての調査も進めた。 また上記の作業と並行して、秦が属した皇道派台頭を促した背景にあった宇垣一成を中心とした陸軍主流派による政党政治への妥協や接近についての分析も行うことで秦ら皇道派の問題意識の登場背景の一端についての研究も行うことができた。 ただし、成果の点では順調に進んでいるが、史料調査を十分行えなかった点でやや遅れている。2023年度に史料調査を実施することで、この遅延を取りかえしたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は皇道派将官である秦真次の著作を調査し、「太陽道」・「皇道」などの概念を生み出した秦の思想分析を行い、秦の思想がいかに戦場における「死」の問題に応えようとしたのかを検討し、それらに関する成果を上げることが出来た。またあわせて、秦真次の皇道派や青年将校運動への影響関係に関する調査も行い、秦の思想が遠藤友四郎といった日本主義者を介して青年将校運動に一定の影響を与えていたことなどを検討した。 2023年度は上記の成果を踏まえ、皇道派や青年将校運動の思想分析を行った論文の投稿準備、そして前年度に『立命館史学』42号に掲載された史料紹介の続編を投稿する作業も行うことで、本研究を進展させていく予定である。 また2022年度においては、史料調査を十分行えなかった点でやや遅れている。そのため、2023年度に史料調査を実施することで、この遅延を取りかえしたい。
|
Causes of Carryover |
2022年度においては施設改修やCOVID-19の流行による施設利用制限等があり、史料調査実施の調整ができず、史料調査を十分行えなかった。そのため、予定していた史料調査のための出張の実施が遅れており、想定していた使用計画と齟齬が出ている。 本年度である2023年度については、前年度で実施できなかった史料調査を2023年度は積極的に実施して、史料調査実施の遅れを取り戻したい。また、必要の範囲でアルバイトを雇用するなど、史料収集、整理の効率化をはかることを計画している。 以上、さらなる史料調査実施および史料収集や整理の効率化などに前年度の助成金もあてることで、成果公表の加速をはかり、さらなる成果の公表につなげていくことを計画している。
|
Research Products
(4 results)