2021 Fiscal Year Research-status Report
孝の「説話表象」の三次元的把握モデルの発展的研究――「二十四孝」説話を基点に
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21K12866
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宇野 瑞木 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (60794881)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 二十四孝 / 孝子伝 / 説話表象 / 東アジア / イメージ / 建築装飾 / 和漢 / 漢字文化圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中心的対象である「二十四孝」は、中国古代に生まれた家族間にはたらく実践倫理「孝」を様々なタイプの孝子24人の伝によって説いた〈孝子説話のダイジェスト版〉である。「二十四孝」は、唐末五代頃の敦煌文書の中に「二十四孝押座文」が残ることから10世頃までには成立していたと考えられるが、14世紀以降に編まれた図・詩・伝(註文)がセットになった形態の説話集により、東アジアの諸地域に広く伝播し、「孝」思想を浸透させるのに力を発揮したと考えられる。 本研究では、この「二十四孝」に着目し、とくに説話が生きられた場を復元的に把握すること、すなわち説話集や説話そのもののみならず、説話を取り巻く諸要素との関係性を含んだ「説話表象」という視座のもとに考察することを目指している。それは、平面的資料(文字、図像)をもとに、分野横断的な方法論により総合しながら、説話の生きられた空間を三次元的に再構築する作業となる。これにより、「孝」の儒教思想としての歴史では捉えられてこなかった、もう一つの表象としての歴史を掬い取り、複数の機能の副動的な在り方を動態的に把握することを目的としている。 以上の目的のために、これまで「二十四孝」説話の日本と中国におけるは成立・展開・受容と変容の問題を平面(文字・図像資料)の次元で行った研究を基盤として、そこから立体(家・墓・語りの場・社寺建築など)へと発展させる形で研究を遂行している。また、本研究では、日本と中国の研究を応用した形で、同じく「二十四孝」が伝播した韓国とベトナムにおいても実地調査をし比較研究を行うとともに、前近代から近代における「二十四孝」の衰退・忘却の過程を明らかにすることを目指すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
もともと、新型コロナウィルス蔓延の影響を考慮し、海外における実地調査は2年目以降とし、1年目は国内の前近代及び前近代から近代へ移行する時期の寺社建築も含めて実地調査を行う予定であった。しかし、2022年度中は感染拡大状況が改善されることはなく、国内であっても実地調査で難しい状況にあると判断した。そのため、本年度は予定していた全ての実地調査は見送られることとなった。 しかし、その代わりに、実地調査の下準備となる資料収集とデータの整理に注力することができた。特に進展が見られたのは、中国の墳墓から発見される二十四孝図に関するデータ収集と整理である。具体的には、本研究の基盤となっている2016年公刊の申請者の単著(『孝の風景――説話表象文化論序説』勉誠出版)以降に発刊された『文物』『考古』をはじめとする中国考古学雑誌より宋元明墓の二十四孝図の発掘報告を収集し、孝子説話の種類・配列順、空間配置と他の画題との関係についてのデータを整理する作業を進めることができた。 また、本研究の成果の一部について、東洋大学日本文学文化学会の2021年度大会(7月24日)における招待講演「孝の説話表象の伝播とその展開――前近代の東アジアの視座から」とその論文掲載(『日本文学文化』第21号、2022年2月)、及びハワイ大学マノア校で開催された国際学会AAS( (The Association for Asian Studies)(2022年3月27日のパネル)において「(Mis) translation of “The Tales of the Twenty-four Paragons of Filial Piety” in pre-modern Japan: misunderstanding, modification and parody」という題での発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの蔓延状況に注意しながらではあるが、2年目は国内の実地調査を進めることを予定している。具体的には、これまで国内調査においては、二十四孝図が大規模な社寺建築に採用される重要な時期である寛永年間(1624‐1645)の作例(京都・西本願寺の御影堂や御香宮神社拝殿、北野天満宮社殿等)を中心に、他の画題との関係も含めて空間配置とその意味、下絵、採用背景などに関して実地調査を行ってきたが、 2年目は、こうした社寺彫刻に説話画を採用する動きの先駆をなす紀州の社寺建築について実地調査を行う(御船神社本殿(1560)、加太春日神社本殿(1596)等)。その上で、二十四孝図の早い段階での採用の背景、またその下絵や人的繋がりについて明らかにし、論文として成果を発表する。 また、それと同時に、引き続き江戸後期から明治期までの社寺装飾彫刻の作例のデータ作成を修復報告書や建築関係の学術論文、及び写真集を中心とした文献資料から進める。その上で、把握できない部分や確認すべき点を明確にした上で、実地調査を行う。具体的には、以下の寺社を調査する予定である。成田山新勝寺「二十四孝」「神功皇后」「武内宿祢」1701(元禄14)~1888(明治21)竣工、鷲野谷香取神社本殿「二十四孝」「仁田四郎猪退治」1838(天保9)竣工、富塚鳥見神社本殿「二十四孝」1812(文化9)竣工、海南刀切神社拝殿「二十四孝」「天岩戸」「大蛇退治」(江戸末~明治)等。その上で、国内の寺社建築装飾における説話画の画題や配置の変遷とその意味機能について、「二十四孝図」を中心に分析を行い論文にまとめる。 以上を基盤として、最終年度の3年目は、祭祀空間における「二十四孝図」の配置と機能について中国と日本についてまとめる。また、ベトナムと韓国で実地調査を行うことを予定している。
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