2022 Fiscal Year Research-status Report
孝の「説話表象」の三次元的把握モデルの発展的研究――「二十四孝」説話を基点に
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21K12866
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
宇野 瑞木 専修大学, 文学部, 講師 (60794881)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 二十四孝 / 孝子伝 / 説話表象 / 東アジア / イメージ / 建築装飾 / 和漢 / 漢字文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、中国古代に生まれた「孝」という徳目を説く説話集「二十四孝」について、着目し、説話が機能した空間や文脈を含んだ「説話表象」という視座のもとに、東アジア社会におけるその機能の様相を動態的に探ることを行ってきた。その際、中国由来の思想を説く説話表象が、日本、韓国、ベトナムでそれぞれに導入される際に、いかに受容され、また変容を遂げたのか、また各地の在来の世界観や信仰基盤といかに融合・衝突・棲み分けなどがなされたのかを明らかにし、さらに比較検討することを方法論的主軸としている。 以上の目的の遂行のために、今年度は、①昨年度に引き続き中国と日本における二十四孝表象の研究、②ベトナムおよび韓国の説話表象に関する研究を進めた。①については、具体的には二十四孝説話のうち、棄老とその諫めのモチーフを持つ「元覚」説話に着目し、その中国と日本における展開を説話本文・図像、語りや儀礼・民間の習俗を含めて検討し論文にまとめた(『儒教思想と絵画』)。②については、第一に、不孝譚の一つと考えられる「討債鬼」譚に着目し、その中国での生成・展開した場として偽経『父母恩重経』や『仏頂心陀羅尼経』周辺を想定し、さらに日本、韓国、ベトナムへの展開について概観し、日本中国学会の学会誌に発表した。また、15世紀までのベトナムの在地信仰や外来信仰・宗教文化受容の様態を知る上で欠かせない説話集『嶺南せっ怪列伝』に着目し、中国由来の外来の文化・信仰世界の受容と在地の土地神への語り方の変容との関係などを検討して論文にまとめ学術誌に発表した(『説話文学研究』)。 以上により、ベトナムにおいては「中国化/脱中国化」の相克が顕著であり、同じ中国文化影響下の韓国や日本との相違点や共通点が浮き彫りになってきた点で、今後の見通しを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目である今年度は、二十四孝および不孝説話も含めた周辺の説話の展開を、昨年までの中国と日本の比較から、さらに韓国、ベトナムにまで広げて行うことができた。これによって、ベトナムまで含んだ前近代の東アジア諸地域における孝子説話や不孝説話について比較検討を行う足掛かりが得られた点で大きな進展があったと考える。 その新たに得られた足掛かりとなる観点は、二十四孝を含む孝の観念を含む説話表象の東アジア社会における伝播の経路として、中国撰述仏典(所謂「偽経」)の流伝の場が重要である可能性である。具体的には、孝子説話や不孝説話の展開する場は、東アジアの広い地域において仏教側から報恩としての孝を説く『父母恩重経』、また罪障消滅の功徳を説く『仏頂心陀羅尼経』などの偽経、あるいは『尊勝陀羅尼経』などの仏典の享受の場が介在している可能性が高いことが見えてきた。特に、中国においては二十四孝が醸成された唐代がターニングポイントと考えられるが、これらの経典においては、儒教・仏教・道教が混交する様相を呈しており、また各地域や時代の世俗の観念や民間信仰なども混ざり合いながら説話が生成・変容していく様相が明らかにできるはずである。また二十四孝の儒教を基盤とした世界観の中では、基本的に想定されていない仏教由来の輪廻転生の観念が入り込んでくる点も重要な問題と考えられる。以上のように、偽経・仏典の説教の場という共通の説話伝播の経路を押さえることで、地域的時代的な偏差をより厳密に読み出すことが可能になるであろう。 したがって最終年度は、以上のように新たに得られた視点を踏まえて、さらに日本、中国・韓国・ベトナムにおける二十四孝とその周辺の説話の生成流伝の場と説話表象の機能について引き続き調査・研究を続け、研究成果を発表する。また今年度までに実施予定であった現地調査も行いたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、二十四孝をはじめとした孝を説く説話表象の機能について、東アジアにおける共通性と偏差を見極める作業を行い、その上で日本と中国での展開においてまとめた三次元的な孝の説話表象モデルをさらに汎用的で有効なものとすることを目指す。そのために、二十四孝説話表象の研究を、引き続き中国・日本・韓国・韓国・ベトナムにおいて実施する。またその際、儒教と仏教との関係に加え、道教との関係にも目配りする予定である。 具体的には、①「二十四孝」の各説話の表現に関する分析を行い、その説話が受容された思想的基盤を明らかにし、②その上で、「二十四孝」の説話表象がどのような空間的配置と機能を有していたか、中国・日本・韓国・ベトナムにおいて比較検討する予定である。①については、例えば、二十四孝の中で最も古い説話の一つであり、民間にも流布し、とくに道教の影響の色濃いことが推測される董永説話に着目し、特に織女に関する位置づけやその背景にある超越的存在および世界観について検討する。見通しとしては、織女の乗る雲の表現が、中国では道教的文脈において描かれ、仙女としてのイメージが強くなったのに対し、日本のお伽草子などでは来迎雲に近い表現で描かれているように仏教的な世界観が色濃くなったと考えている。このように、「二十四孝」のそれぞれの説話について、本文には出てこないが、イメージにおいて変容が生じたモチーフやその表現的特徴を分析することで、説話を支える思想基盤について丁寧に検討していく作業を、中国・日本・韓国・ベトナムにおいて行う。 その上で②の作業として、①の分析結果を活用しながら、各地域における祭祀空間の中での「二十四孝」表象の空間配置と機能を明らかにする。 以上の研究を着実に進め、その成果を学術雑誌や書籍等に発表することを目指す。
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Causes of Carryover |
2年目の今年度においては、夏季の長期休暇の間に、国外(韓国およびベトナム)での実地調査を行うことを予定していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の状況を鑑みて中止としたために、渡航費と宿泊費のために予定していた費用が未使用となった。 今年度は、その代わりに海外での実地調査の下準備となる資料収集とデータの整理を行うことに注力し、研究自体は進展を見たと考えている。 以上の理由により、この国外の実地調査については、最終年度へと見送ることとしたため、次年度使用額が生じることとなった。
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