2023 Fiscal Year Research-status Report
孝の「説話表象」の三次元的把握モデルの発展的研究――「二十四孝」説話を基点に
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21K12866
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
宇野 瑞木 専修大学, 文学部, 講師 (60794881)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 孝 / 二十四孝 / 孝子伝 / 説話 / 図像 / 表象 / 東アジア / 漢字文化圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中心課題「二十四孝」は、家での実践倫理「孝」を24人の孝子の事蹟(孝子説話)によって説いた説話集であり、前近代の東アジア諸地域社会に広く共有された。東アジアにおいて広く「孝」思想を浸透させた孝子説話の研究は、従来単に儒教の受容という一面的な理解にとどまってきた側面がある。本研究では、表象という視座を設けることで、東アジア諸地域における説話の多面的な機能を明らかにし、さらに近代にそれがいかに変質・排除・忘却されていったのかを多層的に解明することを目的として研究を進めてきた。 当該年度は、主に以下の三つの研究を行った。第一に、日本の室町期から江戸期にかけての二十四孝の受容と展開を明らかにする上で重要な新資料である徳田和夫氏所蔵の写本『孝行録附』の「孝抄」の翻刻・書影を解題とともに『専修国文』第114号に紹介した。「孝抄」はお伽草子(和文)の「二十四孝」が生成する過程を解明する上で重要な資料であり、本論文によってお伽草子「二十四孝」の成立過程を解明する有力な手掛かりを提供することができたと考えている。第二に、二十四孝のうち董永説話について、日中韓さらにベトナムまでを含めた展開を、文字テクストや語りのみならず、これまで十分に検討されたことのなかった図像も含めて検討した。特に本論考では、脇役ともいえる孝の奇蹟の象徴である織女の描かれた方が大きく変容していった点に着目し、その飛翔時の叙述や織女が乗る雲のイメージの変容などから、各地域・時代の説話享受の宗教的背景を明らかにした(「雲に乗る織女の誕生――董永説話の織女イメージの変容をめぐって」、『古典文学研究の対象と方法』花鳥社)。第三に、ベトナムにおける実地調査において、ハノイ市内のタンロン大学で開催された説話文学関連のシンポジウムへ参加し、市内の博物館、廟の見学、書店などで二十四孝や儒教に関連する資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における目的は、中国、日本、韓国、さらにベトナムまで含む東アジア地域の前近代から近代にかけての「孝」の質的変容を解明することであり、そのために二十四孝を中心とした孝子説話の生成・受容・展開の過程を「説話表象」という視座から明らかにすることである。 まず中国・日本における二十四孝説話の展開については、各説話の主要な図像資料、本文資料はひととおり収集・整理、調査・発表が実施できた段階にある。但し、日本近世の二十四孝資料は写本、出版物、絵画、建築彫刻など多岐にわたる上に作例が膨大であるため、今後も継続的な調査が必要である。また明治期における該当説話の表象を検討するための資料収集・整理は今後に残された課題である。 韓国での二十四孝説話の展開については、現状では日本へ大いに影響を与えた説話集『孝行録』や『三綱行実図』を中心に行っている状況であるが、韓国での独自な展開に関する調査は残された課題である。 更にベトナムにおける二十四孝説話の展開については、ハノイ市内の資料をおおむね収集した段階であり、それにより一部の説話について調査し成果を論文として発表したが、今後二十四話全体に関する調査およびホーチミン市などでの資料収集を行う必要があると考えている。 以上、当初掲げていた東アジアの各地における説話表象の展開の解明という目標について、一定の成果を示すことが出来たといえるが、とくに実地調査ができなかった韓国における独自の展開の問題を中心に、今後も継続的に実施していくことが必要と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題においては、今後、以下四つの方向における研究を展開させていく予定である。第一に、韓国とベトナムにおける「二十四孝」資料の収集・調査・データ化を行う。ベトナム所在の二十四孝関連資料については佐藤トゥイウェン『ベトナムにおける「二十四孝」の研究』(2017年)があるが、そのうちハノイの漢喃研究院所蔵資料については既に収集してあるため、ベトナムの他の機関に所蔵されている二十四孝関連資料を収集する(ベトナム国家図書館、ホーチミン市総合科学図書館等)。またベトナム現地調査では、俗文学の挿絵・版画の他、寺院や廟の建築物の説話画の配置や機能、絵画や工芸調度品における説話画の調査撮影も併せて行う。また韓国での現地調査も行う(墓、寺院・廟建築、李朝民画等、及び国立中央図書館、東国大学、高麗大学等、博物館等)。以上の資料は随時データ化を行い、研究を進めるための基盤とする。 第二に、以上の資料を含めた東アジア諸地域における「二十四孝」表象の比較研究を進める。日本については、とりわけ江戸~明治期竣工の社寺装飾彫刻「二十四孝図」の調査を本格的に行う。 第三に、江戸期~明治期の文学・芸能における「孝」の説話表象の分析を中心に、江戸期から明治期の二十四孝説話の展開を解明する。具体的には、『日本教育文庫 孝義篇』(黒川真道編、1911年刊)に収載された近世の孝子伝・孝女伝を手始めに、未翻刻の写本・刊本を含めた「孝義録」類の諸本、寺小屋の教科書(往来物)等の「孝」説話を集積し、傾向を分析するとともに、挿絵等の図像を含めた伝記の形成を跡づける。 第四に、各分野の専門家を集めたワークショップを行い、その成果をジャーナルか単行本として公刊する。さらにこれらの「二十四孝」に関する研究成果を簡便にまとめて提供し得る「二十四孝ハンドブック」のような刊行物として世に提供することを目指す。
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Causes of Carryover |
韓国の二十四孝資料に関する実地調査にあてる予定であったが、事前調査が不十分で、日程調整が間に合わないと判断したため、次年度使用額として見送ることとした。本使用額は、この調査にあてる予定である。
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