2021 Fiscal Year Research-status Report
舞踊譜に20世紀バレエの新時代を読む:ニジンスキーの姿態造形法の解析
Project/Area Number |
21K12870
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
佐藤 真知子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 研究員 (20851249)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 20世紀の舞踊 / バレエ / 振付 / ニジンスキー / 造形舞踊 / 造形美術と舞踊 / 身体技法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀初頭の美術史の転換期の中で、舞踊が姿態造形法という観点からいかなる変化を遂げたのかを、ロシアのバレエダンサーであるニジンスキーの振付実践を軸に明らかにすることを目的とする。そのために2021年度は、①この時代の新たな舞踊のキーワードのひとつと考えられる「造形」についての考え方の把握、②世紀転換期に書かれたバレエの舞踊記譜法および舞踊譜の分析、の2点により研究を進めた。 ①に関しては、20世紀初頭に「造形舞踊」という新たな舞踊形態がヨーロッパで広く流行していたことに着目し、この「造形」という言葉があてられた複数の舞踊の特徴を分析した。その結果、「造形舞踊」とは既存の造形美術を模倣したという意味ではなく、むしろ造形美術の着想源になった人間の身体の美を追究するという意味で使われていたことを見出した。さらにこの舞踊形態は、無機的で静謐な質と有機的で動的な身体性という、相反する性質を包含していることも指摘した。ここから、従来型のバレエから脱却したニジンスキーによる新たな姿態造形の試みは、この時代に広く探究された新たな身体文化の潮流に同期して生じたものであるとの見方が深まった。この成果の一部は、「二〇世紀初頭の舞踊における「プラスティック」の概念」『演劇学論集 日本演劇学会紀要』第73号に発表した。 ②については、新たな身体性を希求するながれの中でしばしば言及される「古いバレエ」の造形法を把握するため、当時よりバレエの殿堂であったロシア帝室劇場バレエにおいて、19世紀後半に考案された舞踊表記法(ステパノフ表記法)について分析した。具体的には、この表記法における身体の考え方を分析しつつ、基礎訓練としてのバレエ・エクササイズの譜例、およびこの時代の代表的な振付家プティパらによる古典バレエの作品譜を詳細に検討した。これを通して、本研究に関する新たな問いを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初2021年度は、ニジンスキーの作品譜の収集とその分析を主たる実施計画として予定していた。しかし、コロナ禍による昨今の社会状況から海外資料調査に赴くことが困難であったため、一部研究計画を組み換えた。そしてすでに収集済みの資料および日本国内で入手可能な資料を精査し、研究対象期の舞踊文化について広く分析を進めた。その結果、本研究の根本に関わる、美術と舞踊の関係性についての同時代的な考え方を把握することができた。また来年度に向けて、新たな視点と問題点を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、19世紀末から20世紀初頭にかけて美術を参照しながら大きく変化した舞踊について、造形法という観点からさらに深く探究していく。具体的にはこの時期の舞踊家が、造形美術をスケッチしたり、その造形を舞踊譜に記したりした事例を取り上げる。このような既存の造形美術を研究するという舞踊家の試みが、新たな舞踊の姿態造形法にどのように影響するかについて、考察を進める予定である。 さらに昨年度の研究を通じて、この時期におこった新たな舞踊潮流は、大正末期以降に日本にも影響していたことが見出された。ヨーロッパだけでなく日本も含めて、新たな舞踊のあり方や身体技法がどのように議論され実践されたのかを、具体的に明らかにしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
前述のとおり、前年度に予定していた海外調査は延期せざるを得ない状況となっている。そのため海外出張費として、予算の一部を次年度へと繰り越した。
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