2021 Fiscal Year Research-status Report
Venetian Artists and Catholic Patronage in Bavaria in the 16th Century
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21K12877
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 佑馬 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (10898779)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ルネサンス美術 / アルプス南北の文化交流 / ヴェネツィア派 / ティツィアーノ / パリス・ボルドーネ / ランベルト・シュストリス / アウクスブルク / 石板油彩画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、16世紀中葉の南ドイツ帝国自由都市アウクスブルクを訪問したヴェネツィア派芸術家たちの創作活動の実態を解明し、彼らが南ドイツ・カトリック改革(対抗宗教改革)とどう協調したか、具体的に跡づけることを目的にします。研究成果は日本語、及びイタリア語での書籍化を目指しており、以下の部構成に対応する形で、各部分の研究を進めています。序論:ルネサンス期アウクスブルクにおける都市商人たちの美術パトロネージ、宗教改革による影響、第1部:ティツィアーノのアウクスブルク滞在(1548年、1550~51年)、第2部:ティツィアーノ以外のヴェネツィア派芸術家たちによるアウクスブルク訪問。第2部については、パリス・ボルドーネ、ランベルト・シュストリスといった、ティツィアーノの弟子、あるいはライヴァルと言える画家たちの訪問事例を考察します。2021年度の活動は、第2部の内容の中核部分を整理し、学会発表、論文投稿することに充てられました。 前年度より研究継続していたパリス・ボルドーネのアウクスブルク滞在については、2021年10月刊行の『美術史』第191冊所載論文で一つの形にまとめました。同論文では、パリスのアウクスブルク訪問を定説の1540年頃ではなく、シュマルカルデン戦争後の1550年頃と位置づけ、フッガー家への神話画連作に新たな特定案を提示しました。ティツィアーノの弟子であったランベルト・シュストリスに関しては、2021年12月に地中海学会第45回大会で口頭発表した他、同学会の『地中海学研究』第45号に論文投稿を行い、論文は2022年6月に出版されます。シュストリスの画業全体を再構成した上で、彼のアウクスブルクでの制作作品に新たな帰属案、年代案を提示しました。 第1部の内容に関しても、石板油彩画に関する論考を2022年1月に国際美術史学会(CIHA)サンパウロ大会で英語口頭発表しました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初より、本年度は単著第2部の中核部分を成すパリス・ボルドーネのアウクスブルク滞在、ランベルト・シュストリスのアウクスブルク滞在に関して研究内容をまとめ、学会発表、論文投稿を進める計画を立案していました。新型コロナの感染拡大状況が改善せず、イタリア及びドイツでの調査を実施することはできませんでしたが、海外調査は2022年度以降に行うこととし、調査結果については欧米の学術誌へ改めて投稿することを目標にします。国際美術史学会(CIHA)サンパウロ大会で英語口頭発表した、ティツィアーノの2作品をめぐる石板油彩技法の発展史(第1部内容)については、2022年度も研究継続課題とします。 海外調査を実施できなかった点は若干の遅れですが、その分、第1部の内容に関し研究に着手できたので、全体としてはおおむね予定通り、順調なペースで研究が進捗しています。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度より研究代表者の所属が変更しますが、研究計画に変わりはありません。 2022年度は、可能であればヨーロッパでの現地調査を実施し、2021年度に研究したパリス・ボルドーネ、及び、ランベルト・シュストリスのアウクスブルク滞在に関し、解決しきれなかった問題の究明に努めます。日本語論文の内容に、新たに判明した調査結果を反映させ、欧米の学術誌への論文投稿を目指します。その上で、2022年1月に国際美術史学会(CIHA)サンパウロ大会で口頭発表した、ティツィアーノの《エッケ・ホモ》、《悲しみの聖母》をめぐる石板油彩画技法の発展史について、学会会議録掲載の英語論文を完成させます。前後の歴史的文脈を踏まえて内容を再度検討、発展させ、日本語論文にもまとめなおすことを希望しています。 2023年度以降は、序論及び第1部(ティツィアーノのアウクスブルク滞在)に関する研究に注力したいと思います。第1部に関しては、上記の石板油彩画に関する議論の他に、ティツィアーノの武装肖像画連作(1548年)とハプスブルク宮廷(カール5世)による戦勝プロパガンダ形成の関連性についての研究、アントニス・モル等の画家を通じたヨーロッパ規模でのティツィアーノ肖像画の受容史に関する研究などを予定しています。第1部に関しても、各部分の議論を日本及び欧米で学会発表、論文投稿し、それらの内容を集成する形で、2024~25年度にかけ、日本語及びイタリア語で単著を完成させる計画を立案しています。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、2021年度にイタリア及びドイツで現地調査を実施し、その調査結果に基づいて欧米の学術誌への論文投稿を模索する計画でした。しかし新型コロナの感染拡大状況が改善せず、海外渡航が難しかったため、調査は次年度に実施することにし、旅費は繰り越しとなりました。欧米学術誌への投稿も次年度以降に繰り延べとなったため、原稿のネイティブ・チェックを想定した「人件費・謝金」も繰り越しとなりました。
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