2022 Fiscal Year Research-status Report
Northern European Printmaking: Reception and Influence of the Prints in the Court of Rudolf II
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21K12883
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
川上 恵理 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (10844813)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 版画 / 神聖ローマ帝国 / ルドルフ2世 / 北方版画 / マニエリスム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世のプラハ宮廷における版画受容のされ方がいかに北方版画制作に影響したかを、宮廷での版画の受容方法と機能を読み解くことで明らかにする。この研究においては、皇帝が版画の刷りと原版の双方を収集していたという実情にもとづき、刷りと原版の二側面から宮廷での北方版画受容の様相と版画が持ちえた役割を調査する。 本年度も、前年度までに引き続き、ルドルフ2世が版画家に対して発行した印刷特認権の研究を進めている。前年度はそれらの印刷特認権のリスト化と翻訳を行い、史料翻訳としてまとめたが、本年度もその研究を推し進め、印刷特認権を得た版画家の目録を拡充したうえで、神聖ローマ帝国内で流通した書物に対する印刷特認権と比較しつつ、版画に対する印刷特認権の特徴と効果について考察している。これについては、非公式の研究会にて口頭発表を行った。その際の意見交換の結果、今後は一次資料のテクストのみならず、具体的な版画の原版やその刷りの調査を通じて、版画家にとっての印刷特認権の重要性がどこにあったのかという点を考察しつつ研究を進めることにした。 その具体的な版画の原版の一例として、版画家ヘンドリック・ホルツィウスの《ケレスとバッカスいなければウェヌスが凍える》(1595年、ウィーン、美術史美術館)がある。これは通常の銅製の原版ではなく、銀製という特殊な貴金属製原版である。原版には「1595年」の年記が刻まれているが、この年にホルツィウスがルドルフ2世より印刷特認権を得ており、それを機に銀製の原版が制作され、同皇帝に献上されたという説がある。本作品の研究は当初より予定しており、プラハ宮廷における原版の受容や素材に注目した作品研究を行う予定であったが、そこに印刷特認権の調査結果をくわえて研究を進めている。この原版の研究成果については、翌年度前半での口頭発表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定にはなかったものの、ルドルフ2世による印刷特認権発行の実態について詳しく調査を行っていたことにより、予定以上に研究に時間がかかっている。しかし、これはルドルフ2世の宮廷の版画への関わりという本課題のベースとなる部分であり、必要な作業であった。また、原版等の作品研究を行う際に、その調査結果を用いることで、より正確な作品解釈につながると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は調査や情報収集を中心的に行ってきたが、最終年度の翌年度には、それらを整理して論文等の成果にまとめる作業についてはやや速度を上げて取り組む必要がある。まずは、本年度行った上述のホルツィウスの銀製原版に関する調査結果がある程度まとまりを成しつつあるため、2023年6月に口頭発表を行う予定である。また、渡航の規制が緩和されたため、在外調査についても再開できる見込みである。現地で、特にオンラインで公開されていない作品(ホルツィウスの上述の銀製原版による初期の刷りなど)を中心に実見することを予定している。
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Causes of Carryover |
当初予定していた複数回の在外調査が、海外渡航の制限により行えていないことは大きく影響している。デジタル媒体を利用して国内での事前調査を充実させるなど、今後の在外調査を効率よく行うための準備と対策は行ってきたため、出入国の規制が緩和された来年度に在外調査を状況に応じて順次再開し、本課題の研究遂行を目指す。
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