2022 Fiscal Year Research-status Report
Art collection and outflow by the Ueda family, a lumber merchant called Fuyukiya-focusing on commercial and cultural activities-
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21K12889
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
宮武 慶之 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (30760087)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 茶の湯 / 中興名物 / 冬木屋上田家 / 侘び / 雲林院 / 英一蝶 / 横谷宗珉 / 松平伊賀守 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、現在の冬木家(明治維新に際し上田氏から冬木氏に改姓)より過去帳および系図の提供を受けたことにより、一族全体を把握することができた。これらの資料から冬木屋三代目弥平次(政郷)と英一蝶筆「仏涅槃図」(ボストン美術館蔵)の関係を研究した。また本家六代目から七代目当主の時期に流出した美術品の購入先である松平伊賀守家について、同家のコレクション形成を明確にした上で冬木屋旧蔵品の占める位置について考察した。 1)冬木屋三代目弥平次(政郷) 系図および過去帳から、妻は坂本周斎の娘であり、娘てるがいたことが確認できた。政郷は正徳二年三月に没するが、娘てるは同年正月に没していた。同じ時期、冬木屋に出入りした英一蝶により「仏涅槃図」が描かれ、さらに冬木屋が檀那となった雲林院に寄進される。寄進の背景には当時の政郷、娘てるの菩提を弔うという関係性と共に、政郷は雲林院へ大燈国師墨蹟「凩」(重要文化財 九州国立博物館蔵)を寄進した後、「仏涅槃図」を寄進している点から当時の雲林院との関係をより明確にできた。なお「仏涅槃図」の軸先は横谷宗珉によるもので、宗珉の姉は本家二代目政親の後妻であり、このような冬木屋をめぐる血縁関係が大きな比重を占めることが確認できた。 2)松平伊賀守家 上田藩主松平家の蔵帳に相当する資料から、同家の旧蔵品を追跡調査したところ七十八件の記述しかないものの国宝二件、重要文化財一件、重要美術品一件を含んでいた。所蔵品構成は天皇家及び将軍家からの拝領品、土浦藩主土屋家旧蔵品、冬木屋上田家旧蔵品となる。冬木屋旧蔵品の入手では大名物唐物茶入「冬木絃付」(個人蔵)、藤原定家筆二首懐紙(泉屋博古館蔵)等が確認できた。本研究によって冬木屋から流出した道具を入手した松平不昧以外に、「冬木絃付」を入手していた松平伊賀守も当時の茶の湯文化史において重要な人物であることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度では江戸時代後期における冬木屋の活動に焦点をあてた。本年度は時期を遡り冬木屋本家三代目弥平次および分家である小平次二代目の活動に焦点をあてるとともに、江戸時代後期の主要な美術品流出については上田藩主松平伊賀守家に着目し研究を行うことができた。 三代目政郷については行状が不明確な部分が多かったが、文献の博捜を行うとともに、現存する美術品からの検討することにより、当時の冬木屋の家族構成と帰依した寺院への寄進から当時の状況をより明確にすることができた。また本阿弥光悦作赤楽茶碗銘「加賀」(重要文化財 承天閣美術館蔵)の箱墨書に明記される所蔵者、仙々斎についても分家二代目小平次と同定することができた。なお江戸時代後期にもう一人仙々斎を名乗る人物が存在する。 江戸時代後期の美術品流出に関して、従来注目されることがなかった松平伊賀守家に着目することで、冬木屋の美術品移動をより明確にするができた。また伊賀守家当主が川上不白に茶の湯を師事しており、特に冬木屋本分家も不白と関係し、さらに表千家との関係も含めて考察の対象に加えたことで、当時の茶の湯文化との関係および美術品移動の可能性がより高まった。特に伊賀守家では正徳四年の銀座役人闕所道具である「片輪車蒔絵螺鈿手箱」(国宝 東京国立博物館蔵)、「千歳蒔絵硯箱」(中興名物 藤田美術館蔵)を八代将軍徳川吉宗から拝領しており、その後の当主によって「冬木鉉付」をはじめとする冬木屋道具の入手は、同家のコレクション形成において名物道具の移動という点でも、意義あるものであることが確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に確認できた過去帳および系図の存在は、本研究課題では不可欠の資料となり、今後、一族の関係性を明確にする際にも有用な資料と位置付けられる。なおこれらの資料は冬木屋に関する先行研究において島田筑波、相見香雨、石塚青我によって一部が紹介されるが、部分的に異なる点を把握できることに加え、一族全体を検討することが可能となる点で有用である。本年度以降、これらの資料を活用した研究を継続し、冬木屋一族の商業的な活動および、茶の湯やほかの文化圏での交流をより明確にする必要がある。特に注目すべき今後の研究で重要となるのは次の二点である。 一点目は商業圏での活動。冬木屋本分家と数代にわたり婚姻関係が確認できる家に注目する。これらには両替商や同業である材木商が含まれるため、冬木屋本体の活動を材木商としての活動へも関係したものと考えられる。また冬木屋による材木商以外の収益にも着目する。 二点目は茶の湯やほかの文化圏での活動。これまで美術品の移動と流出に着目したが、冬木屋の入手という点にも着目する必要がある。しかし従来の研究では、入手の時期については不明確な部分が多いため、作品数はごく少数に限定されることが予想される。現在時点では冬木屋の入手時期が明確な作品が国外に存在することが確認できているため、上述の冬木屋の経営と美術品入手という観点から研究を行う。以上二点を中心として研究を行い冬木屋の経営、美術品入手および流出について時系列の骨格を提示することが可能となる。 次年度の研究課題では単に富裕な冬木屋の歴代が美術品収集を行った研究にとどまらず、収集における意義を日本文化における「わび」の系譜にどのように位置づけられるのかという点にも発展させ研究を行う。このことにより茶の湯文化における「わび」の展開をより一層明確にすることが期待できる。
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Causes of Carryover |
現地での調査を要する出張旅費および、研究成果の公表のための画像掲載料の発生による。
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